縁と月日

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 ようやく姉が彼氏の車でやって来たのは、3時頃だった。 痺れを切らした母が「もう紋に電話しようかしら~」と言い出した頃、到着した。 「いらっしゃい」 「うん、只今」 「こんにちは。はじめまして前田岳です」 四十代前半の岳さんは母に姉を通して事前に、子供を連れて東京から運転してくるのだから、スーツじゃなくて良いと言われていて、スーツではないもののジャケットにシャツ姿だった。その様子はどことは言わずおしゃれで、ひげが少しワイルドでカメラマンと言われたら納得の雰囲気だった。 「旭。挨拶」 斜め後ろに立つ小学生の女の娘が、少し前に出ると「佐野旭です。宜しくお願いします」とペコッと頭を下げた。 か、カワイイ! 私が子供の頃のおしゃれとはレベルが一つ、二つ上の都会のお嬢さん的におしゃれ。 「どうも遠くから、ようこそ。狭い家だけど、入って、入って!」 母に急かされて、居間へ上がり、自己紹介を繰り返した。 ちょこんと岳さんと姉の間に座った旭ちゃんは、はじめこそ知らないうちで緊張していたみたいだけど、すぐに落ち着いて、明るそうなおしゃべりな子供だと分かった。 母に「紋もちゃんと料理してるの? さすがに旭ちゃんがいるんだし、作らないと」と言われて、姉が「作ってるよ。あーちゃんが泊まるときは、何か作ってる、ね?別に上手じゃないけど」と旭ちゃんに振った。 「紋ちゃん、お料理は普通……かな。あ、カレーは上手です!」といったので、我が家は旭ちゃんの正直さと気配りに笑った。 「色々やってくれて、助かってます」と、すかさず岳さんがフォローしていた。 「岳さんのほうが、料理、上手いの」 「うん。パパは上手」 「あら、いいじゃない。ねえ」 「そうだなぁ」 両親とも和やかに話をして、姉が珍しく照れたように笑う姿をみて、こっちまで幸せになった。
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