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「してないんですか?」
「してません。」
ホテルのカフェで、質問の数倍の身の上話をツラツラと繰り広げて、目の前の人を呆れさせている。
「したい、と思います?」
「ええっと……」
まいったな。
恋、したいか?
ー いいご縁があれば、ぜひ。
そういう大人の正解は見えているけど、嘘八百。
本音を言うと、したくない。
どうでもいい。
というか、もう御免だ。
帰りたい。
「ははは。困りますよね、見合い相手にそんな事、聞かれて」
ああ。
勘のいい人。
困り果てた私の気持ちを代弁してくれた。
眼の前に座る、黒髪、眼鏡の「清水さん」は、知り合いの教授にさっき、簡易のお見合い、というか、お見合いごっこで紹介された人だ。
私の務める大学とは違う私立大学で、講師をしている方だそうだ。
しっかりアイロン掛けされた水色のシャツに、良い人感が溢れている。
なんでお見合いなんかに来たのだろう。
普通に恋愛して、結婚して、子供がいそうな、三十三歳、男性。
「清水さん、なんでお見合い、なんですか?」
「それはですね、あの、理系の研究室にいると、やっぱり出会いが少ないっていうか、僕自身、こういう感じなんで」
こういう感じ?
「え?普通に良い人そうですよ」
謙遜しているんだと思って、良い人そうだって言ったら、苦笑いされた。
「は?ええ。あー、正直ですね、良い人そう、か。有り難いです。……普段は、もっと、今以上にモサっと、してるんですよ。これでも今日は失礼にならないようにって、気をつけて来たんで」
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