鳴かない蛍

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*** 「してないんですか?」 「してません。」 ホテルのカフェで、質問の数倍の身の上話をツラツラと繰り広げて、目の前の人を呆れさせている。 「したい、と思います?」 「ええっと……」 まいったな。 恋、したいか? ー いいご縁があれば、ぜひ。 そういう大人の正解は見えているけど、嘘八百。 本音を言うと、したくない。 どうでもいい。 というか、もう御免だ。 帰りたい。 「ははは。困りますよね、見合い相手にそんな事、聞かれて」 ああ。 勘のいい人。 困り果てた私の気持ちを代弁してくれた。 眼の前に座る、黒髪、眼鏡の「清水さん」は、知り合いの教授にさっき、簡易のお見合い、というか、お見合いごっこで紹介された人だ。 私の務める大学とは違う私立大学で、講師をしている方だそうだ。 しっかりアイロン掛けされた水色のシャツに、良い人感が溢れている。 なんでお見合いなんかに来たのだろう。 普通に恋愛して、結婚して、子供がいそうな、三十三歳、男性。 「清水さん、なんでお見合い、なんですか?」 「それはですね、あの、理系の研究室にいると、やっぱり出会いが少ないっていうか、僕自身、こういう感じなんで」 こういう感じ? 「え?普通に良い人そうですよ」 謙遜しているんだと思って、良い人そうだって言ったら、苦笑いされた。 「は?ええ。あー、正直ですね、良い人そう、か。有り難いです。……普段は、もっと、今以上にモサっと、してるんですよ。これでも今日は失礼にならないようにって、気をつけて来たんで」
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