縁と月日

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午後、高城さんが今度は一歌さんと一緒にやってきた。商店街をそれぞれ回ってくれているらしい。 一歌さんは来るなりエプロンを着ている私を見て、「あー、エプロン、着てくれてるー!」と喜んでくれた。 「うん。デザイン、かわいいですね」 私がエプロンの端を摘んで、絵柄を眺めて言うと、一歌さんは満足そうに笑う。 「良かったぁ。ははは。陽ちゃん、似合うよ」 「ふふふ。ありがとう。試飲していく時間あります? 並んでくれたら、出来ますけど」 「うん、うん。していく! 川瀬君のとこでタダ酒出してるって、噂になってるから来たの」 「私も、よかったら参加します」 高城さんも一歌さんのあんまりな言い方に笑いながら、試飲へ参加して行くと言う。 「はい。じゃあ、こちらでお待ち下さい〜」と、椅子を勧めた。 「ずっと、朝からやってるの?」と一歌さんが腰掛けながら聞く。 「はい。結構ぽつりぽつりと来てくれるんで、列にはなってないですけど、途切れず、4,5人位づつやってます」 「頑張ってますね」 高城さんが褒めてくれた。 「凄いね、塩澤は朝一回、午後一回だけ。午前のは、結構来てて、お店、にぎやかだったけど……」 その日の商店街の状況報告をしあって、前のグループが終わって順番になると、二人とその後来たカップルを一緒に中へ案内した。 テーブルの上のセッティングをしていた圭くんが顔をあげて、「あ。一歌さんと高城さんも一緒にきてくれたんですか?」と知った顔を見て軽く会釈した。 「うん。そう。タダでお酒の飲み比べができるって、聞いてちょっとねー」と一歌さんが笑う。 圭くんは一歌さん達に来てくれたお礼を言いつつも、「じゃあ、始めましょっか」と他のお客さんもいるので、試飲の説明を始めた。 私は邪魔にならないように空いた瓶を片付けて、前のグループの使ったグラスを洗い始める。 そうして脇役に徹していたつもりが、圭くんが私に「ありがと、陽ちゃん」とか言うたびに、一歌さんがちらちらと私を気にしているようだった。 なんか、ちょっと気恥ずかしい。 一歌さん、なにか、高城さんから聞いたのかな。 ひとしきり試飲が終わって、高城さんも他の方と帰っていくと、残った一歌さんがそっとキッチンにやってきた。
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