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「知らなかった!」と一歌さんが目を丸くする。
「良いんですよ、知らなくて。大昔の話です」
確かに一歌さんは知らなくて当たり前だ。
昔からここのいる人は知っているけど。
「そっか。あー、良かった! 私、陽ちゃんが、あのイケメンに辛い恋してるんだと思って、止めた方が良いってずっと思ってたんだよ」
「海斗ですか? あいつはモテるけども……駄目ですよ」
海斗が好きだったんではないかという誤解に、圭くんは少しふざけて眉をひそめて見せた。
「色々、誤解で良かったです。あはは」
圭くんが遊んでるっていう、変な誤解が解けて良かった。
圭くんがそんな事は無いといえば、もちろん信じているけども、モテそうだし、独身だし、多少はあるのかもなんて思ってた。
良かったと笑うと一歌さんも私と圭くんを見比べて笑った。
「ははは。本当、そうだね。……私にはちゃんと陽ちゃんのラベルがついてるように見えてたよ」
「え?」
「ベッタリと。古いラベル、一生懸命擦らなくても、しっかり陽ちゃんのラベルシール、ついてる感じ」
あ。
あの日、飲み屋さんで喋った話を思い出した。
「なんですか、それ?」
圭くんが訳が分からないというように一歌さんに聞いたけど、私はその言葉にぎゅうっと胸がいっぱいになってしまった。
「……そうなら、嬉しいです」
知らない人から見たら、お似合いなんて思ってくれたりするんだろうか。
「うん。じゃあ、さっきの一本買って帰ろう〜。塩澤がそろそろ午後の部、始めるころだから見に行くわ」
「うん。あ、私、そろそろ次のグループ呼んでくるね!」
「あ、ああ。お願いします」
圭くんはまだ合点がいかないようだったけれど、私は嬉しさで頬が赤くなりそうで、次のお客さんを呼びに行った。
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