縁と月日

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翌朝、父と母は朝から姉が婚約者をつれてくるということに、そわそわしていて、私の個人的な別のそわそわは見過ごされた。 私は圭くんのところに泊まるという話題も、「お姉ちゃんが私のベット使って良いよ」という一言で、それ以上深掘りされず、いつ言い出すべきかと思ったままだ。 「陽。紋の部屋のシーツ、これに替えて。えっと、お客さんぶとん、出して。ああ、もうこんな事なら、客間、断捨離すればよかった」 おじいちゃんが住んでいた階下を賃貸にしてから、捨てられなかったものが押入れをはみ出し、客間の一角を物置化している。 私の、キッチンに置ききれない趣味のジャム用の鍋や空き瓶やら、パン作りの物も置いてあるから、私はなんとも文句が言えない。 「大丈夫だから、どうせお姉ちゃんも岳さんに、狭い家だよって、言ってるって」 「そうだけど。都会の子が来たら、びっくりするよ? こんな古い家で」 「ははは。うちが古いのはもうしょうがないから。お母さん、買い物行くんでしょ?」 「あっ、そうだった! 行ってくるっ! お母さん、御飯とデザートは今から買ってくるけど、陽、紋に岳さん、ビールがいいのか、お酒、何がいいのか聞いてみてよ。で、お父さんか陽が買ってきて」 「分かった、分かった」 ドタバタと準備している母とは対象的に、父はソファで新聞を何回もペラペラしている。 それでも、もう読み終わったでしょ、何回読むの?とは言えない雰囲気で、私が無言で通りかかったら、「小さい子が遊べるような物はいるんかな?」と聞いてきた。 「アサヒちゃん?最近はタブレットとか持ってくるんじゃない?」 「そうかな」 「そうだと思うよ。私の部屋に色鉛筆とかなら、あるけど。8歳って言ってたよね?」 「ん。そうかな」 「大丈夫じゃない? 一応、出しとくけど」 両親の緊張ぶりに何故か私まで緊張しそうになる。 子連れで姉の彼氏が泊まりにくると言うのは、まぁ、そうそうある事じゃない。 姉にビールでいいのか、日本酒、焼酎、ワインがいいのか、あるいはノンアルかとメッセージで聞くと、「何でもいいよ。適当で」と言う。 じゃあ、日本酒と、ビールがあれば良いのかな。どうせ食事は和洋折衷だろうし。 「お父さん。ビール買ってきてよ」 「え?俺が」 いつもなら進んで私が買いに行く所だけれど、私も部屋を片付けたいし、掃除機をかけてしまいたい。
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