縁と月日

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ああ、心臓に悪い。 「あ、いた。すみません、いましたぁ!」 さっきの奥さんにお礼をジェスチャーして、私の声にびっくりして、こちらに気がついた様子の旭ちゃんに近寄った。 しゃがんで見ると、トンネルの中に入り込んでいる旭ちゃんの隣にはソックスがいた。 「旭ちゃん、居なくなったと思ってびっくした」 「あ、ごめんなさい。猫が見えて、気になって」 ソックスがクネクネっと旭ちゃんにくっつく。 「カワイイ」 「うん。この子、ソックスっていうんだよ」 白猫の黑斑で、後ろ足には靴下模様。 「あー、合ってる。野良猫?」 「うんん、ご近所さんの猫。店から出てきてこの辺ウロウロしてるの」 「かわいいね」とソックスを撫でた。 良かった。 変質者でも、お父さんの再婚で悩んでいるんでもなくて。 一度立ち上がって背中を伸ばして、手に持ったままのミルクティーを思い出した。 「うん。はぁ、良かった〜、あ、ミルクティー、はい、どうぞ」 「あ、ありがとうございます」 トンネルから出てきた旭ちゃんにミルクティーを渡してベンチに座ると、ソックスもやってきた。 「私、ココアにするんだった。待っててね?」 自動販売機で自分の飲み物を買って、小走りでベンチに戻る。 人のお子さんの世話をするのは気が気じゃない。 ベンチに座って、二人で温かい飲み物を飲んだ。 「ペットは?飼ってる?」 「飼ってない。好きだけど。ちょっとアレルギー」 「え?だめじゃん! えー。猫も?手、洗う?」 猫に触らせてしまった! アルコール除菌はさっきしたけど、その程度で大丈夫だっただろうか。 ああー。 「ははは。ちょっとは大丈夫」 焦る私を尻目に余裕で笑った。 「旭ちゃん。何かあったら、困るのよ、人様のお子様に! お姉ちゃんに怒られちゃう」と、笑って言うと、旭ちゃんもへへへっと笑った。 「紋ちゃんには、言わなきゃバレないよ」 「まあね。後で、帰ったら手を洗おう」 「うん」
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