縁と月日

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夕食のあと、岳さんと父はのんびりと飲み続け、私と姉は片付けを手伝った。 母が旭ちゃんとテレビを見に行くと、キッチンで姉が急に「泊まるんだ?」と誂う。 「え?ああ。うん。」 「ふーん。いいねぇ、付き合い始めっ!」 布巾片手に、そんな事を言う。 「良いのは、婚約したお姉ちゃんでしょ」 「まあね。ははは」と指輪のはまった左手の指をピンと伸ばして笑った。 圭君は、姉の幼馴染だ。 元カレだ。。 圭君が言うように、恋愛感情はもう無くても、特別な人だろう。 私が付き合うとか、どう思っているんだろう。 「……嫌じゃない?」 「え?」 「私が圭君と付き合うとか……」 嫌だと言われても、困るのだけど、正直、少し気になって聞いてしまった。 「えー、嫌じゃないなぁ。圭、多分、今、すごく陽が好きだよ? 陽も昔から、ずっと好きでしょう?」 あ。 やっぱりバレていた。 「うん」 「圭は、私にとって特別な友達だけど、大事な人には、ちゃんと幸せでいて欲しいじゃん?」 柔らかく笑ってそういう姉は美しかった。 「うん」 「あ。言っとくけど、特別って、あの、そういう“特別”とかじゃないしね?」  「え?なに?」 くすっと笑うと、声をさらに押さえて、「高校の時、してないから、安心して」と悪戯をするように笑った。 「お姉ちゃん!?」 「だって、気になるじゃん?もう圭に、確認してた? えー、気にしてないとは言わせない!!」 姉は綺麗な顔して、平気で私がはっきり聞けないでいた事を口にして笑った。 「いや、姉妹、比べられても困るじゃん?陽のほうが胸あるし。まぁ、圭はそういう人じゃないと思うけどさ」 「あのさぁ~、言わなくて良くない?」 「ハハハ。冗談」 言わなくて良いと言ったけど、確かに気になるとこだった。 良かった、教えてくれて。 姉のほうがすらっとスリムな身体をしている。ちょっと贅肉もついた私と比べられても困る。 「ん。ありがと」 「あー、良かった、良かった!」 ピンポーン 「はいはい」と母が立ち上がるので、「あ、圭君かも。私、出る」と濡れた手を拭いた。
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