縁と月日

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ちょっと前に九時過ぎ位で?と連絡していたけど、それから片付けをしていて、携帯を見ていなかった。 スマホを手に取ると、その間に圭君から『今から行く』とのメッセージが入っていた。 「陽、圭なら、ちょっと上がってもらおう」 「え?」 「いいじゃない。陽はその間に、準備してさ。私、岳さんに紹介したい」 「あ、分かった」 姉は、しょっちゅう帰ってくるわけでもない。岳さんのご両親に挨拶したら入籍すると言っていたから、会える時に挨拶しておきたいのだろう。 玄関を開けると、圭君がアウターのポケットに手を突っ込んで、少し寒そうに立っていた。 「こんばんは。まだ早かった?」 「こんばんは。うんん。片付け大体終わったし、良いんだけど。圭君、あの、ちょっと、上がってって」 「あ。ああ。挨拶したほうがいいか」 大人だし、お泊り位で、挨拶とかはいいと思うんだけども。 圭君は、しっかりしている。 「あ、あの、挨拶っていうか、お姉ちゃんがちょっと紹介したいって」 「あ、ああ。紋の婚約者の人?」 公園にいた娘さんもいるとか、説明しようとしたら「圭。いらっしゃい。上がってよ、ちょっと」と姉が階段の上から声をかけた。 「ああ。じゃあ、おじゃまします」 「陽が出かける準備してる間だけでいいから」と、無理やり誘われて、圭君がリビングに入る。 私が昨日すでに簡単なメイク道具などお泊り用に詰めたバックを取りに行くと、姉は、もう随分飲んで、出来上がっている父と付き合わされている岳さんの方に圭君を案内していた。 「紹介するね」 岳さんと旭ちゃんを紹介している声がする。 何か一言二言、話をしていて、私が部屋から鞄を持って出てきたときには「いや、こちらこそ宜しくお願いします」と圭君が岳さんに会釈していた。 父が、いきなり「圭君も陽をお願いね?」と笑って言った。 ああ、酔っぱらい。 なんか結婚の挨拶に来た岳さんと同じように言われても、困るだろうに。 「はい。勿論です」 好青年ぶりを発揮して、怯まずに笑って答えている。 さすがだ、圭君。 商店街の飲み会で、この辺の酔っ払いのおじさんの相手をしつくしているだけある。
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