1759人が本棚に入れています
本棚に追加
圭君が父にそれ以上絡まれる前に、「準備出来たよ」と後ろから声をかけると、圭君が振り返った。
「あ。陽ちゃん」
「おまたせしました」
「陽ちゃん、もう行くの?」とパジャマ姿でテレビを見ていた旭ちゃんが顔を上げた。
「あ、まだ後で来たほうが良かったら、俺、出直すけど」
「うんん。いい。旭ちゃん、また明日の朝ね?帰るのは昼前でしょ?」と姉にも予定を聞く。
「うん、11時頃迄は居れるから、朝ね」
「旭は、そろそろ寝る時間。」と岳さんにも言われて、「はあい。じゃあ、陽ちゃん、明日ねぇー」と岳さんにじゃれつきながら、旭ちゃんがバイバイした。
すっかり慣れて、楽しそう。
「じゃ、明日の朝、戻るし」とさり気なく母と父に言うと、「うん、お世話になります」と母が挨拶した。
「はい。じゃ、失礼します」
階段を降りて、玄関で靴を履く。
「なんか、急にごめんね」というと圭君は少し「全然。ちょい緊張したけど」と笑った。
玄関を出ると、家の明るい蛍光灯の光から一気に夜の商店街の少し寂れた街灯の光に包まれた。
公園の方の空に月が綺麗に出ていた。
反対の大通りからは、車や人のざわめきが聞こえる。
「行こっか」
「うん」
「持つよ」というと、さっとトートバッグをバックを持ってくれた。
「ありがと」
「ん」とバックを肩に掛けると、私の手を取る。急にドキッとする。
圭君に手を繋がれている、ということだけで体温が1℃上がる気がした。
「岳さん、良い人そうだったね」
歩きながら、ふっと圭君が言った。
「うん。良い人みたい。旭ちゃんもいい子だし」
「良かったな」
「うん」
最初のコメントを投稿しよう!