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ぼそっと姉の幸せを喜ぶ圭君の手をきゅっと握って、返事をすると、圭君がこっちを見て微笑む。
「さて、と」
「さて?」
「ははは。さて、どうしようかな、と思って」
「え?」
どうしよう?
お家に行くんですよね?
「お腹、一杯?」
「うん。お母さん、張り切ったから。圭君、まだ食べてない?」
「食べた、食べた。……じゃ、風呂は?もう入った?」
あー、なんか、本当に、泊まるんだ。
「まだ。旭ちゃんしかまだ入ってなかったの」
「うん。蔵に風呂もついてるから、大丈夫」
脇道に入って、圭君のうちの門をくぐる。
庭を横切って、離れの蔵の玄関を開けた。
「どうぞ」
「おじゃまします」
パチン、パチンと電気をつけると、鍵をおいて、ジャケットを脱いだ。
なんか緊張してきた。
さっきまで夕飯でお酒も飲んだし、いい緊張だというのはわかるのだけど、心臓が次第にうるさくなって、静かな部屋に響いてしまいそうだと思う。
「ちょっとまってて。先、風呂、入れてくる」
一階の奥へ圭君が消えて、私はこの間イベントスペースとして使ったリビングの大きなダイニングテーブルに腰掛けた。
なんだか不思議だ。
この間は、ここでワイワイガヤガヤと多くの人が出入りしていたのに、ブラインドが閉められ、キッチンと、スタンドライトの間接証明だけに照らされた空間はしっとりと蔵本来の落ち着きをかもちだしていた。
落ち着く空間、けど、駄目だ、落ち着かないっ!
こんなしっとりした夜に圭君と二人だと思うと、ドキドキする。
廊下から戻った圭君は、余裕の雰囲気で「待ってる間、なんかちょっと飲む?」とキッチンに入った。
「うん」
「何がいい?色々置いてるけど」
「ソーダ割りなら何でも」
「ハイボールか、ジンソーダ。梅酒もあるし、焼酎もある」
「えっとジンソーダ、お願いします」
「オッケー」
まるでバーだ。
ちょっと前に姉たちが3次会の会場にしたって言ってたのもうなずける。
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