縁と月日

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軽く腕まくりすると、グラスに氷を入れだした圭君の様子を眺めた。 慣れた様子で、二つのグラスにジンソーダを作ってくれた。腕まくりで、手首からの男の人らしい筋が見えて、さらにかっこよく見える。 「はい、陽ちゃん」とグラスを持って来てくれた。 「乾杯」「頂きます」 強炭酸の泡が口元でシュワシュワと飛ぶ。 上唇をくすぐられて笑うと、圭君がこっちを見て、クスっと笑った。 「美味しい」 「これは、京都の方で作ってるジン」 「そうなんだ」 微笑んで、こっちを見ている圭君がどうも色っぽい。 「今日、もう結構、飲んだ? おじさん、酔っ払ってたけど」 「私は、そんなに。ビール飲んでたけど。お父さんは、張り切っちゃって」 「そっか。張り切るよな」 「うん。お父さんもお母さんも緊張してたけど、大丈夫だったみたい。私は旭ちゃんと遊んでただけだけど」 「ああ。公園でね。陽ちゃんにもう懐いてたね」 「うん。あのね……」 こくんと頷いて、公園で旭ちゃんを見失った話をした。 話しながら、旭ちゃんの事を思った。 夫婦だったお母さんとお父さんが、別れて、知らない人と家族になる。 どんな気持ちだろう。 それは姉からしたら、誰かの夫だった岳さんが、旭ちゃんの父となり、その人が今度は自分の夫になることだ。 そして、旭ちゃんは、岳さんが誰か自分でない別の人を愛していた証だ。 一回目の結婚を無かった事には出来ない。 一歌さんが言うように、人生色々ある中で、剥がせるラベルや、剥がせないラベル、全部、ひっくるめて、その人の魅力なのかもしれない。 岳さんは、大人で、何か大事な物をしっかり分かっているような落ち着きがあった。 今日、見ていて、旭ちゃんのお父さんとしての雰囲気も素敵だった。 姉はそういう岳さんが好きなのかもしれない。
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