鳴かない蛍

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良い人だし、普通にモテそうだと思ったのだけど、本人は「地味な人」という意味に捉えたようだった。 「それに、良い人って、恋愛というより結婚向きでしょう? なら、色々、飛ばしてお見合いでもいいか、とか……」 そう言いながら、テーブルのコーヒーカップをそっと持ち上げた。 「そうかも、ですね」 確かに、清水さんは、いい夫になりそうだ。 もう温いコーヒーを最後まで飲んでいる。 「……西田さんが恋愛したくないんでも、良いですよ。まず友達にでもなりません?」 落ち着いた様子で、コーヒーカップを置きながら言った。 「友達、ですか?」 「永井先生が、おすすめする方だし。良い人なんだろうって、思うんで」 ああ。 永井先生を立てるためか。 断り辛いのかもしれない。 「永井先生、張り切ってくれましたもんね」 事務局の飲み会で、私が他の女子社員に「もったいない」「直ぐに三十」「婚活してみろ」と詰め寄られていたのをみて、「是非とも、良い人をご紹介する」と言い出した。 普通に飲みの席で紹介されるんだろうと思ったら、こんなホテルでお見合い風に紹介された。 ふざけているのか、本当に張り切っているのか、先程「じゃあ、あとはお若いお二人で〜」と、テレビでしか聞いた事のないようなお見合いの常套句をニヤニヤしながら言って消えて行った。 「ええ。あんまり僕も良く分かってないんですけど、気負わず、時間のあるときに食事でも」 「あ、はい。それで良ければ」 確かに目立つ方ではないのだろうけど、気遣いのできる人だ。 ご飯に行く位で良いなら、是非。 もしかして、抜け出せない温い沼のような愛から、引っ張りだしてはくれないですか?
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