アヒルの水掻き

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さっとボトルをカウンターへ出して、圭君と同じエプロンを掛けたおばさんにレジをしてもらう。 「陽ちゃん、今日も休日出勤? あ、もしかしてデート!?」 「え。ええっと、……ちょっと知り合いに呼ばれて……」 ……お見合いでした。 さっきまでホテルのカフェで、結婚相手を紹介されていましたよ。 圭君のおばさんにそんな情報もいらないだろう。 圭君がどう思うか少し気になったけれど、本人は、そんな事は気にするはずもなく、掃除のため、入口付近のインテリア用の観葉植物の鉢をずらしていた。 「じゃ、また」 入口横の窓を擦っている圭君に軽く声をかけると、「あ、うん。毎度、ありがとうございました〜」なんて店員風の挨拶が返ってきた。 そんなものだ。 飲んだ事のないワインや、スーパーにおいてない地酒を買って飲んでみるのが楽しみになった。 スーパーでケース買い出来る父のビールを重くないように、二本だけ買う。 そんなくだらない、作戦とすら言えない、無駄な行為。 気がついてなんか、無いだろうし、絶対に気が付かれたくない。
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