くじ

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選ばれない勝率ゼロの男に欲が生まれた。二十七年の人生でくじという存在が持つ影響力は大きくも小さくもない。間違いなければ、勝ち続けていたら総額一千万の得をする人生を歩めたはず。たら・ればの世界、くじを引かなければハズレをひかなかったから‥。負けた気分、自ら不幸に陥っている。 と言っても、幼少期からくじで進む道を決められる事は避けられない生活環境というのは変わっていない。協調性を重んずる教育の悪い点になるのかもしれない。誰かが得をする場面も、遠慮がちな生徒は手を挙げられず、くじ引きで居残り掃除当番が決まってしまう。相性の悪いグループとの共同作業をしなければいけないあみだくじ。人数合わせの場面でくじの登場は多く、人生を大幅に左右させるという事はないだろうが、ちりも積もれば不幸は不満となり幸の薄い印象を持たれるだろう。それがまさに空だ。 教育現場の団体活動を例にだしたが、一歩外に出て資本主義経済の中のくじはどうだろうか。紙幣を払い対価を受け取る。サービスを提供する側は他社に差をつける為にキャンペーンを実行する。小さなマグカップが当たるガラガラくじからペアの海外旅行券が当選する三角くじまで商品はピンからキリまである。中にはポイントを設定して購買意欲を駆り立てるだけ駆り立て、たんまり資金を店に落としてようやく抽選権利を与えられる巧妙なやり方もある。お目当ては一位の商品、二位との商品には雲泥の差がある。一位当確の印がつかないものだから、誰しも自分こそが当たると思いポイントが貯まるまで買うのだから店側の思う壺。それもまさに空だ。彼は没頭するタイプで一度目の外れの悔しさのあまり、二度目の抽選券を得るまでポイントを貯める分の金額を店に落とし、二度目も格下の賞にすらかすりもせずに落選。もともと必要のない夢に踊らされ、不必要に買い物をした物品に囲まれ不幸を消費するのに日々を費やす。 再び、学校生活に戻る。学期ごとの席決め、後列窓側が好き、学年が上がるにつれて、隣に座る女子の存在が気になり、ワクワクするイベントで数ヶ月の学校生活を左右する。空、意中の席を射止めた事はない。男子トイレすぐの廊下側、不登校気味な暗い家庭事情を抱えた女子の隣なんてのは当たり前。席決め順をするくじも外れ、最後。残り物に福がある?場合もあるが、ワクワクを削がれた席極めに至ってはない。 繰り返すが、空はくじを引かなければ、熱中できる性格で普通以上の結果を発揮する実力者である。高校最後の部活動、実績、人格から当然のように主将に選ばれ、数十年ぶりに夏の全国大会へ駒を進めた。全国大会組み合わせを決める抽選会はよほど特別な理由がない限り主将がくじを引く。十七の頃にはくじ運が無いと自覚していたが、“よほどの理由”が起こらなかった。監督、顧問、限られた同級生は空のくじ運がないのを知っている。悲壮感たっぷりで引き当てた初戦の対先相手は当然に優勝常連の私立校。誰一人崩れ落ちるように落胆しなかったのが、日頃の空のくじ運悪さを物語っが、報道が怯まない姿勢と取らえたのが皮肉だった。到底敵う相手でなく、三年生全員を出場させる思い出全国大会、それはそれでよかったのであろう。ここでもやはり、公立校で全国大会への出場権を得た代の主将を務めたという功績はくじ運の悪さで薄れる   
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