くじ

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そんな空はギャンブル狂、公営ギャンブル成績は他者に比べれば悪いものではない。中でも週二回のパチンコは日頃のストレスを発散しながら、資金を増やす事ができるのでやめられない。 基本、決まった店舗で打つが、予定のない休日は下調べをして出る台を求めていく。人気店となれば朝から長蛇の列。並んだ末、店内に入れば出ると噂の台には先手を取られ、他人が歓喜するのを待ちながら無駄撃ちをして負け戦となる。より早く並ぶも、店側が公平性を期するためにと用意する抽選くじ。内心、「おいおいおい」だ。 確実に出る台を奪取できる番目にいるのに、大一番を前に難敵くじと前哨戦となる。箱につっこむ手が震えているのを若い女子店員は営業スマイルで気づかないふりでいる。 文句の一つでも言ってやりたいとこだが、屈強な男性社員が店側の決定に有無を言わさない態度。当然、当たりくじに巡り合わず、適当なハズレ台該当者となった。他者の歓喜を想像しながら打つ。前哨戦で運を使わなかった空は大勝ちとはいかなくもその日の晩に多少の贅沢をできるくらいの勝ちは得るのだから心底嫌になってしまう。こんな事ならば、あたり馬に目星をつけて競馬につぎ込めば良かったと思う。 友人二人と弾丸海外ギャンブルツアー。グルメや観光に目を向ける事なく、現地の夜中に到着し、駆けつけ一杯で決起集会をさくっと終えてカジノへ直行、休みたい奴は勝手に部屋で休むシステム。資金が底をついたら終わり、二泊三日でどれくらい生き残れるか。 行きつけのパチンコ店で知り合った情報共有友達、ギャンブル依存に分類される連中。必ず負けるとわかっている賭け事で負けを減らす確率を四六時中考え、定職にもついていない、自称パチプロで食いついないでいるのだから戦績は悪くはなく、弾丸ギャンブルツアーには頼もしい存在。 「祈るな」一人が言った。二日目の夜、久々に同じルーレット卓に並んだ。いち早く、資金の底をつきそうになっている一人が回転するルーレットを待つ間、両手を合わせ目を閉じた時だった。 「無宗教、無信仰だろお前は」旅中、リーダー的存在で戦績もトップ。 「ああ。つい」財布の厚みは自信と比例する。 「都合が良すぎるんだよ。普段はお礼も作法もどっちらけなのに。勝ちたい時だけに神頼り、運だよりになるとはね。負けるときは潔く負けろ。さもないと次の勝ちまでも逃げるぞ。それこそ、もし神がいるのなら、都合のいいやつだとお前を嫌うだろうな」友人関係と一緒だということだ。神や運は友人より格式高いだろうから、都合が悪い時だけに呼び出される便利屋の扱いをしていたら目をつけられ災いを起こすかもしれない。『神は善行しかしない』それも勝手なイメージ。必要ならば性根が悪い奴を懲らしめ、締め付けるのは、結果、改善に繋がることをご存知。 「はずれたー」 「そらみろ」 「あたった」空は勝った。 複数人いるプレイヤーで数回大当たりしだした男の逆を張っていた。なんとなくそんな気がしたからだ。 「なんだろうな、ディーラーが奴をチラチラみていたから」空が勝負勘を言うと 「そういうもんよ。感が研ぎ澄まされている。神、運でなく、感!どう思う?勝負どころは来るか?」 「おそらく。だが長続きはしない。正味あと二回」 「なるほどな、心優しいディーラーは場を白けさせないためにちょうどいい額を順繰りに勝たせてくれるわけだ。あちらさんのグループで一人勝、次は俺ら三人で空を選んだ。気づかない振りでもう少し謙虚に張ればもう少しくるかもな」 「部屋に戻るよ」底をついた一人が言うと 「いや、今はここにいろ、流れが変わっちまう」 「流れ?」  「運とは違う。流れだ。ほれ、チップを分けてやる。これで遊べ。勝てばそっくりそのままお前のもの」 次の回は、分け与えられた彼にも勝ちが来た。空も勝った。リーダー一人、負けたが満足。「俺は次で降りる」と言ったのに空も賛成したが、もう一人は勝負勘がずれていて残る選択をした。   終始、優れていたのは空だった。手持ちを増やしてツアーを終え、出国前の晩飯を負けで終わった仲間に奢る事ができた。 帰国後、満を期してG1制覇にかかるが粉砕、そんなもんだろう。  
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