くじ

4/8
前へ
/8ページ
次へ
年末に差し掛かる。クリスマスから歳末まで予約で一杯、バイト意識から料理人として意地をみせるようになっていた空は雑用ではなく、料理を振る舞う。経験したことのない忙しさだったが、やりがいのある時間で、十分に成長を証明できた。   さあ、いよいよ、年始だ。 順調な仕事はそのままに、総合で負けが込んだ財布事情を取り戻す。 運試しだ。 デパートの福袋、くじではないが、最高額五万円相当が入っている袋を手に取る。ざっとみて二十分の一、「これでしょ!!」重すぎず、軽すぎない、期待ができる。 商店街をねり歩く、新年記念の抽選くじ、一等は電動自転車 「欲しい、通勤が楽になる」 外車中古車ディーラ前でも誰彼構わずのガラガラくじ、一等は車!! 「通勤が楽になる、だが、駐車場問題が生まれる、二等は車の内装で使用する革で作った高級カバン、男前度が上がる」 老舗和菓子屋で高級詰め合わせが当たる糸を引き当てるくじ 「甘味まで余裕があれば、贅沢の極みだな」 呼び込みの男がうるさい家電量販店、あみだくじで当たる一年間有効の五十万円商品券、巨大なトーナメント表なような物に登録した。三日の先着登録者から選ばれる。エントリーできただけでも幸運、二等も十万相当、三等も五万相当の商品が当たるのだからさすがは家電店 「家の整頓をしておかなければ」 新年特出し大当たり台の謳い文句の整理券を配っている。正月くらい、家族や友人とまったり過ごし英気を養うのが本望、自動扉が開くたびに耳に入ってくる銀の玉が弾ける音に引き寄せられ結局、列に並ぶ。新年につき大当たり台増量中も、整理券くじであたり台を引き当てるかどうか 「勝てば純米大吟醸、負ければ清酒」 家族で出かける初詣、婆さんを連れて行くのに適した時間という事で三が日最後に出向く。知った顔の神主さんと挨拶を済ませ、おみくじを引く。年甲斐になく、両親もおみくじの結果に一喜一憂する。妹は末吉に大満足、欲張らない性格者は今年の大吉よりも永続的な吉を望む。注目は空になる。家族ならでは、空のくじ運の無さは毎年恒例、神社のみならず、学校、職場でもそうなる。全ての始まりは年の初めのおみくじがいけないのではと真剣に家族会議を開いた経験もある。案の定の凶、末吉で謙虚に喜ぶ妹あれば、大凶じゃなかったことに安堵する兄をみて心を撫でる親も不思議なものだ。 凶でスタートした年、時間の流れを無視し、仕事に没頭した。料理、芸術の学位を取得したわけじゃない自分が物を作って有難られる。金を払った客が対価として食べるのは当然で、素直に感想を残して店を出て行くのを経験できることがものすごく嬉しかった。加えて、真剣な作業と味のセンスをかってくれた店の人間が、空の言葉を一つの意見として聞き受けいれてくれるのは自己肯定できる材料、根拠ある自信となった。 一代でレストランチェーンを築いた店でバイトから腕のいいシェフとして認められた。話のネタとして年末年始にくじに負け続けたことは上層部も腹を抱えて笑ってくれた。仕事場で茶飯事に行われる仕事の割り振りをするあみだくじも負け続け、雑務を担当するも慣れっこの空の不平不満言わずこなす姿は笑いと信頼、安心感を与えてくれる。  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加