くじ

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夏を迎えようかという時期、チェーン店はさらなる新規店オープンの準備。 去年、全店舗中の売り上げ高三位だった空が働いている店が、店舗特有の料理が繁盛し、この年の上半期は圧倒的一位を独走している。店から新規店の副料理長を排出されるとなった。 本部の上層部、店の管理職も甲乙つけがたいと悩んで誰を満をじして差し出すか。一人は長年、料理長を務めてきた四十路の男、この度の売り上げアップに貢献した男。一人は空、彼の休日返上してまで働き続け、急成長し、面白い感性を持っていると期待の新人枠となっている。 現役料理長と肩を並べたことに内心有頂天になるも謙遜し、辞退の意を告げる。しかし、上層部の決意は固く、発表を待つようにと言い負かされた。愛着ある店でやり易すい環境がいいなと思う反面、高評価を受ける喜びが活力となる事を初めて体感していた。たとえ、選考漏れしても、現役料理長が抜けるのだから店での昇格は約束されたようなもの。凶のくじの仕事運は災難、上司との揉め事が絶えないでしょうという文句は真逆の結果になっている。 はて。現役料理長が移動先で副料理長となる人事、彼にとっては格下げ、煮え湯を呑まされるので受け入れないかもしれないと噂されていたが、説明を受けている料理長自体は選ばれる事を期待しているという。空はさらに後で話を聞かされることになった。新規店オープンは海外、有名カジノホテルの中に店舗を構え、自営の店で料理をしていた現地人の味の好みを知っている料理人と共に働くという事だった。三十代後半の現地人料理長の事を考慮すれば、年下の成長株の腕の立つ男がいいであろう。海外ではチェーン店よりは格上げした料理とサービスを提供するビジネスモデルを構想している。四、五年の任務後に、経験を持ち帰り、伝達する役目。だが、絶対にコケるわけにはいかない。経験豊富な料理長が候補として強いのも理解できる。 上層部の決定はくじで行われた。本社ビルの会議室に呼び出された二人の前に抽選箱が設置されていた。この時点で、空は諦め、期待値が上がりワクワクした時間に感謝し、地に足つけ、また頑張ろうと言い聞かせた。背広の男が新規店オープンのこと、現地の情勢、二人を最終選考まで残した理由をくどくどと説明した。語っていた男は前触れなく箱に手を突っ込んで、躊躇なく一枚の折りたたまれた紙を引き出した。紙を開き、名前を確認し、頷いてから対面して並ぶ二人に見せた。いち早く落胆した料理長、自分の名前が書かれていることに無邪気に喜ぼうかと思ったが、料理長の手前もあるし、まさか自分がくじで勝ち残るとは思いもよらず拍子抜けしてしまっていた。空は残され、あれこれと説明を受けた。自分で引かないクジに悪影響は少なし!ということか。新天地ということ、クジという概念、日本独特の迷信じみた神頼みから解放されるのは万々歳だ。
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