くじ

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語学が通じないのがたまに傷だが、英語圏外から集められたスタッフ同志が懸命に意思の疎通を取ろうとすると誠意が伝わるのは嬉しく、日本人ブランドは健在で、趣味のアニメ鑑賞が称えられる日が来るとは夢にも思わなかった。 カジノホテル最上階のキッチンスタッフとして働き、移動時間四十分そこらの家で暮らす。手先の器用さに味付けの繊細さはを早々に評価され、信頼されるポジションへと回された。 日本で先輩と切磋琢磨していた頃の方がレベルが高かったと感じていた。客に提供する料理の味付けを任された時点で当然とばかりに給料は上がった。かつて、アルバイト代の賃金交渉の苦労、貢献度を盾に上層部に直談判して滅多刺しにプライドを傷つけられてバイトを辞めていった人間が多かった事を考えれば資本の大きさと、海外文化特有の戦力を確保する為には躊躇しない判断速度を実感した。   「イエーーイ。また勝った」 空は休みになれば決まってカジノに繰り出す。一時間でビーチ、一時間半で山もあるが、空はもっぱらクーラーガンガンの部屋でディーラーと睨み合う。久々の二連休、前日の勝ち逃げから勝ちが続いている。 「もう最高!!」一緒に働く日本語が理解できるフィリピン人シェフとやってきている。他店、他のカジノホテルでは店員のカジノ遊びを禁じている所もある。空が「最高」と喜んでいるのは巡ってきた境遇だ。新天地で別のホテルで働く日本人と友達になったが彼らは規則上カジノで遊べない。 豪遊し、一時でも札束を掴んで金持ち気分の横柄な客にへいこら頭を下げる事だけに来ている。休みは心を洗う為に山に籠り、カジノ街入り口の小さなコテージが経営する小額カジノでひっそりギャンブル心を満たす。 「また勝ち。大勝ちだ」 「すごいねソラ。強運だ。ベリーラック」 「いいや、勝てる算段が出来るんだ」 「さんだん?」 「勝てる方法がわかる」 「ほんとうに?」友達はディーラー女の子を見る。なんとも言い表しがたい表情。負け続けて焦っているのか、生意気な発言に気が触っているのか。そもそも言葉を理解しているのだろうか。日本人客は多いから語気で小馬鹿にされているぐらいは察しているだろう。フロアマネージャー同士が耳打ちし、空の台を注視する。   「ベッド」 「ワンモア」 「うーん、僕はこれで大丈夫。ステイ」 ディーラーの手札は強い。18は相手に分がある。二人以外の客、自らは降りる中で連勝中の空がもう一枚を要求するのを頼もしげにみる。   「こいっ!」 ゆっくりと一枚をめくる。ハートの4の結果、20。 「オーホッホー」 ディーラーが手札をめくる。緊張感あふれる勝負の決着、赤いダイヤが6っこ並んでいる。 「おおおおおお」 「本日5連勝!」そろそろ負けるだろうと気が引きかけ、金を下げるところを勝ち額の半分を投入していたので大勝ちの大勝ち。フロアマネージャーがディーラーの女の子の肩に手をおいて耳打ちし、女の子は頷いて場を離れ、入れ替わりで色黒のベテラン男ディーラーが登場した。その時点で、流れの変化を感じ、二人の客が席を立つ。空の友達も気が進まない。気持ちが大きくなっている空は勝ち逃げに気が引ける。勝負を挑むので友達も付き合った。席を立った二人の客も後ろから勝負を見守る。 「ガッデム」 空は一発で21を揃えてみせ、観覧客は奇跡を目の当たりにしたと他人の勝ちを喜びハイタッチする。カジノ側からの挑戦に付き合ってやって勝ったんだと自信満々でこの卓での勝負を締める。フロアマネージャーらは自分の思惑が外れた事をくやしがるより、去ってくれる事に安堵している。 「最後の勝負は運。女の子とは相性がぴったりで負ける気がしなかったわ」 「へええ、そんなのあんだな」 「ギャンブルしないの?俺は馬、船、パチンコにスロット全般」 「パチンコね!日本でやったことあるけど、滞在資金消える恐怖しかなかった」 「腹減った。飯いこ!」 空は潔くカジノを後にする。黒服を着た男らが視覚に入っているのを嫌った。
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