くじ

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週休二日に、隔週の好きな曜日に早上がりか遅入りを認められ、二日半の休日を作ることもできるし、年に二回の長期休みも与えられる。日本時代の友達がちょくちょく遊びに来る。長期滞在もあり、空のアパートで二、三カ月共に過ごす事もあるので寂しさはわかない。 仕事とギャンブルの生活では彼女は出来なかった。稼いだ額の三分の一をギャンブルで使う。己に決めたルールを絶対に破らない。ギャンブルをする代わりに酒もタバコも女もやらない。完全に金を管理。信じがたいが任期中、負け越す時期もあったが、勝ちで終わる。 自分に運がないという事をさらさら忘れてしまっていた。観光地ということで長期休みを取れる時期が一般とはずれて春または秋になることが多かった。一回は日本に帰国するが、イベンドごとが少ない、年末年始のような運勢を占う事に巡り会わせがないということでくじ運悪の存在を周囲も含めて忘れている。 空の同僚が首になった時は肝を冷やした。同じ厨房で鍋を振るイケイケな性格の中国人が私生活でのカジノ散財で借金まみれになり、自暴自棄に陥り、仕事放棄からの現実逃避で他所のホテルのバーで無銭飲食の現行犯で捕まり、終始暴れまくりで多分に迷惑をかけた。それが発端に、他にもカジノで負けが込んでいて、借金苦で人に迷惑をかけている従業員が数名いたので、他にならって従業員のカジノ出禁命令が下される寸前だったが、店舗を貸すホテルオーナーはカジノで散財してくれることは歓迎、過度な禁欲は毒、例の中国人ほどいかれなければ借金生活は店側にとっては仕事に精を出す効果があるはずで、管理不足を注意され、従業員の管理ができないのは店の甘さ、規制だけで改善すると思っていたらこの誘惑だらけの街で生き残れないと非現実世界で長いことビジネスをしている重鎮の意見に空は救われたのだ。その日に出来上がった成金野郎共にへいこらとサービスを提供する従業員の精神的苦痛は他の世界のそれとは比べものにならない。激務の後に自分も一発、大金夢見てチップを張る。キャバクラ嬢がホストにはまるのと同じだろう。 空は休日のギャンブルのためならばフルに頭と労力を使ってホテルを練り歩いた。空の意識は料理人としての成長よりも、カジノで勝率をあげる事に傾向していた。ちょうど、もう少しで負けが越すのではないかという所で任期終了となった。 空は契約延長希望を匂わせたが、レストラン側もやんわりと彼の自尊心を傷つけないように契約更新の意思がない事を伝えた。彼のカジノ狂いを店側がコントロールできなくなっていた。 負けて辞めるのならば仕事に専念してくれる口実になるのだが、空は勝って負けてが続き、仕事に身が入る事がなくなったのを懸念した。将来のヘッドシェフ候補は私生活に問題ありとレッテルを貼られた。恋人でもできれば変わるかなと期待したが、この街にあぶれるギャンブル狂の人間の目をしている。要注意人物と評価を落として帰国命令に従った事を本人は知らず、最後の最後までカジノに通い、一緒に働いた仲間にも別れの挨拶もしなかった。  
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