0章

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夏らしい生暖かい風が顔の左側へ纏わりつくように飛び込んでくる。 車内に効いている冷房のおかげで体温が上がるような感覚にはならない。 それでも、じんわりと汗が滲んでくるのが嫌で無意識に顔を内側へ向けていく。手持ち無沙汰だったことも相まって、ドリンクホルダーに手を伸ばす。 汗をかいたカップを手に取った時に掌が水分で濡れるのが嫌で指3本で摘むように持ち上げると、中の氷が保っていたバランスを崩すようにコトコトと音を立てて中の水分量を傘増ししたように見せる。 カップから水滴が垂れて私のお気に入りだったスカートを少しだけ濡らす。冷たさが素肌にまで伝わってきたので一瞬自分のスカートを見るが、白い色のおかげか、車内に入ってくる日差しのおかげか、水滴が垂れたことなど微塵も感じさせなかった。 どこを見るわけでもなくカップから伸びるストローを口元に持ってきて残っているレモンスカッシュを吸い上げる。 買ってからしばらく時間が経っていたからか、炭酸が抜けて溶けた氷で味も薄まっていて、自分でも作れそうなレモン水になっていた。 それでも、残った氷による冷たさだけで口に含む理由にはなった。
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