届いた先に

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 不思議なことに、また目が覚めた。そして問われる。誰に?天使に、だ。 「高橋あずささん。あなたの残した平均的な本来の寿命を誰かに落としますか?」 「え?」 「あなたが受け取った寿命もそうです。残した寿命を空から落とすことで他の誰かに託すのです。あなたが与えられた1年も、そうでした」 「わたしの1年も?」  そう突然言われても素直に受け入れることなんて出来なかった。これからもっと楽しめたはずの寿命を他の誰かに託すなんてこと、簡単にできっこない。わたしは迷った。誰かに託すなんてこと出来ないと思う一方で、わたしが分け与えられたのもまた事実だった。フラッシュバックのように流れる楽しかった記憶が、じわじわとわたしの背中を押していく。あの楽しかった日々が誰かのやさしさのおかげなら。 「わたしも、わたしも寿命を落とします」 「高橋あずささん。ではあなたの平均的な本来の寿命を地上へと落とします」 「はい」  そしてわたしはゆっくりと眠りについた。誰かがどこかであたたかい気持ちになってくれることを祈って。誰か笑ってくれることを祈って。 *  ある日、空から寿命が落ちて来た。  それはあたたかくてやさしいオレンジ色の光だった。ぼくは涙が止まらなかった。手に持っていたカッターは震え、嗚咽も止まらなくなった。こんなやさしさは初めてだったから。おかしいな。なんでこんなに生きたいと思うんだろう。なんでだろう。訳も分からずただ泣いてしまうぼくに誰かが語りかけた気がした。 「笑って」  ぐしゃぐしゃな顔のまま笑う僕にはきっと生きなければいけない理由ができたんだ。震える手を押さえながらカッターの刃をしまう。 「ありがとう」  まぶしい空に向かって放った言葉は届いているだろうか。合っているだろうか。  ゴミ箱に捨てたカッターが、強気な音を立ててゴミ箱の中で回る。  これはもうぼくには必要が無いから。
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