彼 去りし日の夜に

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 病院で厳しい宣告をされた私は、家に戻ってすぐ、ベッドに身体を横たえた。  ああ、まさに踏んだり蹴ったりだ──。  かつて担任が偉そうに語っていた言葉を思い出す。 『いいか。学生の(あいだ)みたいな関係は、大人になればなかなか作れない。社会は敵だらけだ。仲良しこよしで甘えていると、引き締まった精神は作れないぞ』  あのときは、また大人が説教かよって思ってた。自分が誠心誠意の気持ちを持てば、いくつになったって友達なんか作れるだろ。おまえが社交性ないだけじゃん。そうやってすぐ説教するような大人にはなりたくないわ。支え合う関係に必要なのは、同じ目線に立って手を取り合うことだろ。若い私たちを(ひが)んでるだけじゃねーの。と思ってた。  でも実際に社会人となったら、同期とはそこそこ仲良くやれても、上司や後輩としっくりこない。上司はいつもピリピリしてる奴か、部下に丸投げで責任を取らない奴ばかり。後輩も学生時代みたいに可愛いものじゃない。丁寧語は使うけど、甘えたり慕ってきたりすることはなく、何か私を目の上の(たん)(こぶ)のように思っている節がある。  まあ私も学生を卒業して色々学んだし、無駄な知識や理論で武装しているところがあるから、くだらない話で盛り上がることもしなくなり、どこか冷めた目でこの冷えた社会を()(かん)していて、なんとなく惰性で諦めが多い人間になっちゃったのは確かだけど。
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