彼 去りし日の夜に

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 そんな中でも同棲していた恋人はいたんだ。  昨日の夜までは、()(どころ)があったんだ。  それをぶっ壊したあいつ。晩酌のついでみたいに口論になった。そしてあいつは言った。「他に好きな女ができた。別れてくれ」と。  私が誠心誠意あいつに尽くしていたかと言えばそうではない。交際当初は熱い恋だったが、気が利かないし()(まま)だし、私よりも大事にしているものがたくさんあって、こいつの優先順位は私が一番じゃねえなと感じてしまった日から急速に気持ちが冷めてしまった。  だからと言って、あいつを(ないがし)ろにした覚えはなくて、むしろ昔の恋心を復旧させようと様々な手を施してきた。ようやく指輪を貰えたときは嬉しかったんだ。でも── 『俺はおまえの料理が好きだった。けど最近は全然作ってくれないだろう』  言われてカチンときた。実際、レトルトやコンビニに頼り切りでろくな料理はしていなかった。でもお互いに遅くまで働いている。手を抜くとしたら料理じゃねーか。私は自分の正当性を訴え、あいつの浮気を責め立てた。するとあいつは必要な荷物を集め、部屋の鍵を壁に投げつけて出て行ってしまった。残されたのは、私と飼い猫のスズだけ……。
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