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佐久間依織は就職して3ヶ月。そこそこ大手の企業に就職出来て、1ヶ月の研修期間が終わって、今の営業部署に配属された。仕事は忙しくて、ほぼ毎日、残業の日々だったけど、それでも大手だけあって福利厚生はしっかりしていたから、休みはしっかりと確保されていた。仕事を教えてくれる先輩方も親切で優しかったけど、営業部を取りまとめている上司が、最悪だった。ワンマンで、無茶な仕事を全て部下に丸投げするようなタイプだった。
仕事内容は、周りの先輩方に助けてもらいながら、こなすことができていたが、それでも時間がかかってしまうことに対して、毎日、ネチネチと嫌味を言われた。
それに、出身大学も気に入らないようで、そのことでも散々ネタにされた。周りもフォローしてくれることもあるが、そもそも仕事量が尋常じゃないので、常に新人をフォローしている余裕もないのも事実だった。
実際「佐久間が課長に捕まっていると、自分のところに来ないから仕事がはかどる」と言われたことがあった。確かに、新人の依織が仕事をするよりも、周りの仕事がはかどるように、上司のはけ口になっていた方が、順調にまわるのだろう。
それでも、毎日毎日「お前は仕事が遅い」「あの大学も質が落ちた。こんな奴が入れるなんて」「給料泥棒」などなど、言われ続けられると本当に自分は無能で何もできない人間に思えてくる。休みの日は、何も気力なく家にこもって寝るだけで1日が終わってしまうことがほとんどで、家と職場だけの往復だけで日々が過ぎていった。
そんな日々に、久しぶりに朝永奏から、連絡があった。奏は、大学のときの友達で、マンションの部屋も隣同士だったから、お互いの部屋を行き来してどっちかの部屋にいることが多く、いっそ一緒に住んでいた方が経済的に良かったのではないかと思うほどだった。だけど、入社を機に近くの寮に入ることにしたから、パッタリと会わなくなった。なので、本当に久しぶりだった。
「じゃあ、久しぶりの再会に乾杯!」
そう言った奏と今運ばれてきたビールジョッキを合わせる。
「奏は仕事慣れた?」
「んー。なんとか?はぁ~でもマジ疲れるわ~。依織は?何か少し痩せた?」
「どうかな……?」
お酒が進むと、今まで溜め込んでいたものが、愚痴となって出てきた。奏は、こんなめんどくさい愚痴にずっと付き合ってくれた。
「かーなでー、だーから、課長の嫌味を聞くために、あの会社にー入ったわけじゃ、ないんだよ。なのに……なんで……」
「伊織、飲み過ぎだよ。さぁ、今日はもう、帰ろ」
「まだ……だいじょうーぶだよー。まだ帰らない~」
「わかった、わかった。じゃあ、久しぶりに俺の家においで。明日は休みだろ?」
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