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 どんなに学校生活が好きな人でも、この日にテンションが上がらないということはないだろう。  よそのことは知らないが、俺が通っている県立宮内(みやうち)高校では、七月二十二日の今日は、待ちに待った一学期の終業式である。  連日のように続く猛暑にうんざりしたり、今しがた担任の教師に手渡された通知表が(かんば)しくなくてがっかりしたり、新学期までの課題の量に絶望したりすることはあっても、夏休みという単語を聞けば自然と胸は高鳴るものだ。  なんとか赤点だけは回避することに成功した俺は、ホームルームを終えて他の生徒たちが教室を出ていく中で、ひとり机に突っ伏して自分自身に(ねぎら)いの言葉をかける。  あと五回耐えれば卒業できるぞ。 「チカ、何やってんだ」 「早く行こうぜ。今日は駅前のラーメン屋に行くって話だったろ」  そんな俺に声をかけるのは、クラスメイトの玉置(たまき)中塚(なかつか)だ。  名前の順によって並べられた最初の席順で前後の関係になったことから仲良くなった、いわゆるいつものメンバーである。 「なんでもない。それって、最近できた新しい店だっけ?」 「そう。今ならオープン記念で替え玉無料らしいぜ」 「マジか。よっしゃ、しこたま食ってやるぜ」  友人二人に連れられるように立ち上がった俺は、机の脇にかけてあったほとんど中身の入っていない通学カバンを肩にかけて歩き始めた。  そのときだった。
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