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「あ、あの」
背後から耳馴染みのない女子の声がした。
自分の名前が呼ばれたわけではないが、俺たち三人に声をかけたのは間違いないだろう。
そう思った俺は、声がするほうに振り返る。
「え、向原さん?」
驚きながらこう言ったのは玉置。
俺と中塚は声こそ出さなかったが、玉置と同様にそれなりに驚いている。
「ちょっと、いいかな」
涼やかな声でこう言った彼女は、クラスで最も人気があると評される向原栞那さんだった。
男子の中では「かわいい」「綺麗」「美人」と評価が分かれるのだが、とにかくそんなすごい人が俺たちに声をかけてきたのである。
「ど、どうしたの?」
こう聞いたのは中塚だ。やや緊張気味に見えるが、気持ちはわかる。
高嶺の花という言葉がふさわしい、気軽に声をかけられるような人ではないのだ。
「あ、えっと、近見くんに、その……」
「え?」
向原さんが出したのは俺の名前だった。
思わず間抜けな声を出してしまったが、すぐに態勢を立て直して向原さんの呼びかけに応じる。
「俺に、何か?」
「えっと、その、ここじゃちょっと……」
恥ずかしそうにうつむいて、向原さんは言葉を切った。
まるで愛の告白をされるんじゃないかと勘違いしてしまいそうだが、そんなことは絶対にないはずだ。
俺と向原さんはほとんどしゃべったこともないし、俺の名前なんて知られてもいないと思っていたのだから。
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