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「いいよ。何をするの?」 「場所を変えたいの。私についてきて」  そう言って向原さんは、自らのカバンを持って歩き始めた。  その後ろ姿を改めて見てみると、思っていたより小さいことがわかった。  男子のそばにいるところをほとんど見たことがないから、そんなふうに思ったのかもしれない。 「屋上?」 「……うん」  俺が連れられた場所は屋上だった。  生徒の立ち入りが禁止されているわけではないから、普通に扉を開けて外に出る。他に人はいないようだった。 「今日も暑いね」  外に出てすぐに俺がこう言うと、向原さんは小さな声で「そうだね」と言って、歩みを止めることなく倉庫によってできた日陰に向かっていった。 「こんなところで、何をするの?」  倉庫の前で立ち止まった向原さんに声をかける。  屋上には倉庫以外に何もないから、手ぶらでここに来てもすることなんてないはずだ。 「……うん。座って」  それだけ言って、向原さんが先に腰を下ろした。  制服姿の女子の正面に座って向き合うのは変だと思った俺は、人一人分のスペースを空けて向原さんの隣に座ることにした。  横並びになって、倉庫に背中を預ける。  すると、向原さんはカバンから何かを取り出した。  そしてすぐに、それを俺に手渡す。 「これは……」  ひと目見てこれが何かはわかったのだが、こう言わずにはいられなかった。  これが何かを聞きたいんじゃなくて、どうしてこれを俺に渡すのかが知りたい。
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