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「近見くんに、食べてもらいたくて」
向原さんが寄越したのは弁当だった。
女子が使うようなかわいらしい容器ではなく、シンプルな無地の弁当箱だった。
「これ、向原さんが作ったの?」
「……うん」
顔を真っ赤にして、向原さんは前を向いてうつむいた。
鼻筋の通ったその横顔を見ていると、うっかり見惚れてしまいそうになる。
「俺が食べてもいいの?」
「近見くんに、食べてほしいの」
「それはいいけど、どうして急に?」
「ごめんね。今は何も聞かずに食べてもらえたら嬉しいな」
どういうことだろう。
向原さんが作ってくれた弁当を食べるのはやぶさかではないというか普通に嬉しいのだが、いったい何がどうなってこの展開になったんだ。
倉庫の陰に玉置と中塚が隠れているんじゃないかと思ってあたりを見渡したが、それはなさそうだ。どうやらドッキリではらしい。
しかし、不用心にこれを食べてしまっていいのかと、俺の中で警戒を促すアラームが鳴っているような気はするのだ。
「……ダメ、かな」
俺が何も言えないでいると、向原さんはものすごく悲しそうな表情を浮かべてこう言った。
今にも泣きそうな顔であっても、近くで見るとやっぱり美人だ。
そんな顔で言われてしまったら、断ることなんてできるわけがなかった。
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