30人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや、もらうよ。それじゃ早速……」
そう言って俺は、そっと弁当箱のふたを開けた。
向原さんはそんな俺を見ることなく、正面を向いて体育座りをしていた。
「うわ、うまそう」
向原さんがすぐ近くにいるから、ここは「おいしそう」と言うべきだったかとすぐに反省したが、そんなことよりも目の前に姿を現した食材のほうが大事だった。
最初に目についたのは、ひと口サイズに握られたおにぎりだ。
弁当箱の半分のスペースを使って三つあって、それぞれ味が付いているようだ。見た目的に、ごま、鶏ごぼう、ゆかりの三種類だろうか。
他のおかずも含めて、色合いがとてもいい。
「いただきます!」
ふたに付いていた箸を取り出して、手を合わせてあいさつをする。
最初にごまがまぶされたおにぎりを食べることにする。さすがに手づかみする気にはならなかった。
「うまい。これ、ごま油使ってる?」
口に入れた瞬間にごま油のいい香りが広がってきて、食欲をそそられる感じがした。
ひと口食べてそのまま食べきりたい気持ちになったが、まずは向原さんの反応を待つことにする。
「…………」
さっきまでうつむいていたはずなのに、俺が不意に横を向くと、向原さんはじっと俺の様子を見ているのがわかった。
食べる瞬間も見られていたのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!