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「いや、もらうよ。それじゃ早速……」  そう言って俺は、そっと弁当箱のふたを開けた。  向原さんはそんな俺を見ることなく、正面を向いて体育座りをしていた。 「うわ、うまそう」  向原さんがすぐ近くにいるから、ここは「おいしそう」と言うべきだったかとすぐに反省したが、そんなことよりも目の前に姿を現した食材のほうが大事だった。  最初に目についたのは、ひと口サイズに握られたおにぎりだ。  弁当箱の半分のスペースを使って三つあって、それぞれ味が付いているようだ。見た目的に、ごま、鶏ごぼう、ゆかりの三種類だろうか。  他のおかずも含めて、色合いがとてもいい。 「いただきます!」  ふたに付いていた箸を取り出して、手を合わせてあいさつをする。  最初にごまがまぶされたおにぎりを食べることにする。さすがに手づかみする気にはならなかった。 「うまい。これ、ごま油使ってる?」  口に入れた瞬間にごま油のいい香りが広がってきて、食欲をそそられる感じがした。  ひと口食べてそのまま食べきりたい気持ちになったが、まずは向原さんの反応を待つことにする。 「…………」  さっきまでうつむいていたはずなのに、俺が不意に横を向くと、向原さんはじっと俺の様子を見ているのがわかった。  食べる瞬間も見られていたのだろうか。
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