prologue

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 生まれながらにして、俺には盗みの才能があった。  近所の駄菓子屋から10円チョコを盗み出すところから始まった盗人としての俺は、今や日本中に名を轟かせる存在となり、常に警察の頭を悩ませている。  狙った獲物は逃さない。リニアの如き速さで盗み取る。その鮮やかな手口はまさに――。  怪盗!!! 「いやお前は怪盗というよりか泥棒だろう」  午後10時。秋の冷ややかな風が吹き込む。  パソコンをカタカタさせながらつっこんだのは、このアパートで一人暮らしをしている女子大生。  丸眼鏡とハンテンが特徴的な彼女と俺の関係はというと、赤の他人である。つい5分前にここ、ベランダで知り合った。正確には、鉢合わせたというやつである。  明らかに不法侵入者である俺に必要以上の関心を持たない彼女、不思議なヤツだ。 「なんか言ったか?   俺には心の中で師匠と呼んで慕っている人がいる。その人は神出鬼没の大怪盗。年齢も性別も不明。盗みを働くたびに新聞の第一面に大々的に取り上げられるんだ。俺もいつか、そんな偉大な怪盗になる。名前も決まっているんだ。その師匠にあやかって、怪盗マロンっての。そして俺は、怪盗になるために今まで数多くの盗みをこなしてきた」 「それはわかった。もう何度も聞いた。だが盗人は盗人でも、お前は怪盗じゃなくて泥棒だ」  パソコンから目を離さずに淡々と言う彼女。 「お前に何がわかる!」  ふんぞりかえって腕を組み鼻を鳴らすと、 「一般人に犯罪者のことなんてわかられてどうする」  最もなことを言って彼女はようやくこちらを向く。ギャグマンガの如く丸眼鏡のレンズが光る。 「でも私はなんだかんだで怪盗文化に詳しい。ちょうど暇していたし、お前が怪盗か泥棒か、ここで白黒つけてみようじゃないか」 「フッ、望むところだ!」  かくして世紀の大怪盗(自称 by彼女)である俺と、丸眼鏡変わり者女子大生である彼女との戦いの火蓋が切られた。
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