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其の1 身なり
「さあ言ってみろ、俺が怪盗ではないという、その訳を!」
すると彼女は、そばに山積みになっていた、わりと古そうな漫画の表紙を俺に見せつけた。見たことはない漫画だが、怪盗ものらしい。結構面白そうだ。
「これは私の愛読書だ。礼装のようなかしこまった衣服にシルクハットにモノクル、世間一般の怪盗といったら大体こんなイメージだろう。二次元作品にも多いパターンだ。とはいえ別に私は、必ずしもこのような恰好でなくてはいけないとは思わない」
「そうだそうだ。師匠もそんな感じだが、常識にとらわれているようじゃ、新時代を切り開く怪盗にはなれない。俺は独自の怪盗像を極めるつもりなんだ」
「しかしだ」
彼女は語気を強めた。
「お前のその唐草模様の手ぬぐいと、深い灰色のスウェット姿は、“怪盗ではない”ではなく“間違いなく泥棒”なのだ!」
そういって、窓辺の俺をビシッと指さした。
「むしろよくそこまで完璧な“泥棒像”を追えたな……」
「だ、だってこの手ぬぐい実用性高いんだぞ。結構容量あるし」
「だからといってわざわざ頭に括り付けることなかろう」
「これは、その、じいちゃんの形見だからさ……。お守りみたいなもんじゃん」
「じいちゃん孝行は結構だが知らん」
「あ、あと、このスウェットだって俺が高校の時から愛用している超優れものなんだぞ。吸水性が高い上に洗濯してもすぐ乾く」
「お前は部活動三昧の学生か。あと物持ち良いな。しかしそのぬぐえない泥棒感、どうにかしないことにはお前のことを怪盗と呼ぶ人物が現れることは無いといって良い」
断言されてしまった。
「私の助言としては、明るい色の服を着ることだ。皆夜に紛れ込もうと暗い色の服を選びがちだが、敢えて普段は明るい色を着用することで、いざ暗闇に紛れ込むときに人々の目を欺きやすくなる」
な、なんだその実用的そうなアドバイスは……。
いや、本当にこの恰好便利なんだが……。
こう言われてしまっては仕方ない……のか?
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