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其の2 やり方
「た、確かに言い分はわかった。だが怪盗というのは身なりだけはない! この俺の鮮やかな盗みの手口、怪盗と呼ぶに差し支えないと思うが?」
「住人である私にあっさり見つかっている点鮮やかなのかはわからないが、その他にも言いたいことはある」
たじろぐ俺に、彼女は尋ねる。
「お前、普段どんなものを盗んでいるんだ?」
「ふん、数えきれないほどあるが、代表的なものをいくつか教えてやろう」
できるだけ堂々とした態度を崩さないようにする。
「宝石や絵画、業物を盗んだことなんかもあったな」
「ほう。で、それらはどこから盗んだんだ?」
自信満々に俺は言う。
「人目につきにくい家々からだよ」
……ん?
なぜ彼女は下を向きながらぷるぷる震えているんだ?
「お、ま、え、な……」
彼女はぐゎっと顔を上げた。
「そんな隠れ忍ぶような盗みを働いておいて、何が怪盗だッ!?」
「わわわ、急に大きな声出すなよ……」
情緒がわからんヤツだ。
彼女はしばらく深呼吸を繰り返したのち、先程の怪盗漫画を再び俺に見せた。
「わかるか。怪盗が狙うのは、厳重警備が施された美術館や博物館、そして豪邸だ。予告状を送ってから犯行に臨む怪盗だって多い。怪盗というのは、犯行を世に知られることを恐れていないのだよ! お前のようなコソ泥のやり口と一緒にしないでいただきたい!」
「コ、コソ泥……」
怪盗への昇格どころか、これでは降格じゃないか。
「先程お前は、自分の盗みの手口は鮮やかだと言ったな。具体的にはどのような工夫をしている」
「そりゃ、まあ……。塀の高い家を狙うとか」
「はあああああああああ……」
バイカル湖より深いため息をつかれてしまった。
「お前、泥棒としては一流だな。それは認める」
褒められている気がしない。……いや褒められてはないんだろうけども。
「そりゃ鮮やかに盗み出せるだろう。なにせ人がいないのだから。もっとこう、オーディエンスを楽しませようとか、そういう姿勢で挑もうとは思わないのか? 高い身体能力、あっと驚くようなトリック、それらを駆使した盗みの計画を立てるんだな、今日中に!」
……そんなの持ち合わせてないよ、俺。
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