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其の3 メンタル
「……あ、あのだなあ」
さあ俺よ、だいぶしどろもどろになってきたぞ。
「さっきから服装のことだの、手口のことだのでいちゃもんつけてくるけどなあ。一番大切なのは、“心”なんだよ」
「……」
「怪盗がもつ強靭な精神。恐れず盗みに挑むその姿勢。それが一番大事なことなんじゃないのか? 俺にはそれがある。子どものころから、万引きの繰り返しで精神力は鍛え上げてきたからな!」
「……最低な鍛え方だな」
……確かに。
「まあ良い。そして、人目を忍んでいたお前に度胸を語られる筋合いもない気がするが、何度も盗みを犯しているのは事実なようだからそれもひとまず置いておく。その上で、意見を述べさせてもらう」
「前置きなっが……」
「お前のせいだ」
彼女は、俺に追いうちをかけるように話し出す。
「単刀直入にきくが、お前には警察と渡り合う覚悟があるのか? もし今後私の助言を受け、人目に付くような犯行に切り替えた場合、警察との対決は免れない。そうなる覚悟はあるのかということだ」
「あ、おう、それなら自信あるぞ! 俺は今まで幾度となく警察からの逃走を経験してきたからな!」
「ほう……。人目を忍んでも、やはり限界はあるだろうからな。その辺りは今までうまく切り抜けて、捕まらずにやってきたのか」
「いや」
「……ん?」
「捕まってるぞ。何なら3回に1回くらい。だがそのたびに、拘置所や刑務所からの脱獄を繰り返しているのさ!」
「……は?」
「だから、これ以上警察の手を煩わせるやつはいないってことで、警察の頭を常に悩ませているってわけだ!」
……あれ、これって結構すごいことじゃないの?
彼女、固まったまま動かなくなったんだが。
「……ダメだ、どう反応して良いのかわからない。いや、ここは素直に褒めた方がお前のためになるのだろうか。世の中には褒められて伸びるタイプも多いと言うしな。よし、3回に1回捕まるという逃走技術はすごいのかということはきくのを止めて、脱獄の素晴らしさについて褒め称えることにしよう」
彼女は俺に、生温かい視線をおくる。
「すごいな、お前」
……いや思考の過程全て話されたうえでそんな褒め方されてもこれっぽっちも嬉しくないんですけど!?
そんな褒め方で伸びる気がしないんですけど!?
「メンタルの面では、なんか問題なさそうだな。うん」
そ、その中途半端な反応が、一番傷つく……。
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