熱気 2

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和哉の言葉が心臓に突き刺さる。 「・・・いや、まだ好きじゃないという訳では・・・」 「でも、確信がないから恋人とセフレの違いをオレに訊いてきたんだろ?」 たしかに、心が伴わなかったらセフレなのかな?って思ったけど・・・。 「・・・だって、好きな気持って言うのが分からないだよ」 「分からなくても、迫ってきた相手は抱けるんだろ?まあ、据え膳食わぬは男の恥とはいうけど、少なくとも相手に欲情して突っ込めたんなら、嫌悪感はないし、むしろあるのは好意だろ?だったら・・・」 オレはそこで和哉の言葉を遮った。 「違うんだ」 オレからアクションを起こしたことはない。もしかしたらオレからいけてたらこんなに悩まなかったかもしれないけれど、オレたちはいつも一成からしかけてきて、オレの身体がそれに抗えなくなるんだ。 「オレが抱くんじゃないんだ」 その言葉に、和哉が眉毛をぴくりと動かす。 「主導権は女の方?お前・・・女に乗っかられてるの?」 話が話なので和哉の言葉があからさまだ。 きっと和哉の頭の中ではぐいぐい来る女に押し倒されたオレの上に、その女が跨ってる姿でも想像しているのだろう。 そう思ってると思うと、オレは恥ずかしくて顔に血が上る。 「・・・違う。あの・・・その・・・根本が違うんだ」 ああ、オレ・・・言っていいのか? 和哉に嫌われないか? 友達やめられたらどうしよう・・・。 「根本?」 オレの言葉が分からない和哉に、オレは意を決して言う。 「ぐいぐい迫ってきて押し倒されて突っ込まれるのはオレの方・・・」 そこまで言っても、まだ和哉は分かってない顔をしている。 「相手は男なんだ。高校から友達になったクラスメイト。前に話しただろ?仲良くなった奴がいるって」 オレはそう言うと和哉を見ていられなくて下を向いた。 和哉はどう思っただろう。 オレのこと嫌いになるだろうか。 それでもいままでみたいに友達でいたいって、オレはちゃんと言えるだろうか。 何も言わない和哉にいたたまれなくなったオレは、そこから逃げ出したい衝動に駆られる。 「・・・なんだ。良かった」 このまま何も聞かずに帰ろう。 そう思ったその時、和哉がぼそりと呟いた。 「え?」 思わず顔を上げて見た和哉は、ほっとしたような顔をしている。 「柚はなんにも知らない世間知らずな上に素直だから、変な女に引っかかったんじゃないかって内心ほんとに心配してたんだよ」 「変な女?」 「ちょっと遊んでそうな年下の男を捕まえて刺激を求める人妻とか、生徒を食い物にする女教師とか」 「な、なんだよそれ」 「AVとかでよくあるだろ?肉食系の熟女が若い男を誘惑して快楽に溺れさせる話」 さらっと際どいことを言う和哉に、オレの顔は再び熱くなる。 「AVなんて見た事ないしっ」 一瞬AVでありそうな濡場を想像して慌てて頭を振る。そんなオレを見て和哉が笑うから・・・。 「・・・からかってる?」 オレの本気の告白を冗談だと思ってるのか? 「いや」 そう言って笑ったまま、和哉が目を細める。 「ほっとしたんだよ。本当に心配だったから・・・。でもちゃんとした恋愛の悩みで良かった」 ちゃんとした恋愛・・・。 男同士なのに? 和哉はそう思ってくれるのか? 「・・・気持ち悪くないのかよ?」 「なんで?別に好きならいいと思うけど?」 「だから、好きか分からないんだって・・・」 もし好きじゃなかったら、オレは好きでもない男としてるってことだぞ? 「柚はさ、そいつのこと友達としては好きなんだろ?初めて話した時からすごく気が合って、すぐ友達になったって、うれしそうに言ってたじゃん」 そうだ。入学してすぐに一成と友達にって、うれしくて和哉に知らせたんだ。 「それからずっとつるんでて、オレとの仲に迫る勢いで仲良くなったって言ってただろ?て事は、友達としての好きさはオレと同じくらいだ」 友達としての仲の良さはまだ和哉の方が上だけど、好きなのは同じだ。
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