熱気 2

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「だったらさ・・・」 そう言って和哉はオレの方へ来るとオレの肩を掴んだ。 「オレもずっと柚のことが好きだったんだ。だからオレにも柚を抱かせて欲しい・・・て、言ったら、柚はオレともしてくれるのか?」 じっとオレの目を見つめてそう言うと、和哉がオレの肩を押す。 その突然の和哉の行動にオレの頭はフリーズする。 「か・・・かず?」 床に押し倒されて訳も分からず名を呼ぶオレに、和哉は覆い被さるように身をかがめてくる。 「・・・好きだよ、柚」 ほとんど唇が触れてしまいそうなくらい近づいた和哉がそう囁く。その瞬間唇に掛かった吐息に、オレは無意識に和哉の胸を力いっぱい押していた。 「やめ・・・っ」 それでも引かない和哉はオレの腕を押さえ込み、なおも唇を近づける。 幼い頃から剣道をしている和哉に力で敵うはずもなく、腕を封じられたオレはすんでのところで横を向いてその唇を躱すも、耳をぐちゅりと舐められてしまった。けれどその瞬間ぞわっと背筋に悪寒が走り、オレは咄嗟に和哉の腹に蹴りを入れた。 「ぐふ・・・っ」 その蹴りは思いのほか強く入り、和哉の口から呻き声が漏れる。そして怯んだ隙にオレは身体を捩って和哉の下から這い出ることができた。 突然豹変した和哉に訳も分からず蹴りを入れてしまったけれど、そのまま腹を押さえて蹲る和哉に不安を覚える。 「か・・・かず・・・?」 オレ、そんなに強く蹴った? もしかしたら大変なことになったのかと和哉の傍に戻ると、その背に手を置いて和哉の顔を覗き込む。 「かず?」 まさか気絶したなんてことないよな? そう思ってもう一度名前を呼ぼうとしたその時、和哉が急に顔を上げ、オレの手首を掴んだ。 「お前、やっぱりちょろいな」 そう言ってあっさりまた押し倒されて和哉の下に戻ってしまったオレは、もう一度蹴ろうとした足も掴まれてしまう。 「離せっ」 そう言って暴れるオレを押さえ込み、あろうことか和哉がオレの股間をむぎゅっと握る。そしてその手をいやらしく動かしながらオレの首筋に顔を埋める。 「やめろ・・・」 そう言いながらもいつの間にか両手を一括りに掴まれ、オレは逃げられないと覚悟する。けれどオレの股間を撫でていた手は不意にその動き止めた。 「・・・そんなに嫌か?」 目を瞑って行為に堪えようとしたオレの耳に和哉の呟きが聞こえ、オレの上からふっと重みが消える。 「そこまで拒否られると、さすがに傷つくわ」 その声に目を開けると和哉はオレの上から退き、床に転がるオレを見下ろしていた。 どういうこと? 何が起こっているのか分からずそのまま動けないオレの腕を掴み、和哉がオレを起き上がらせてくれる。 「そいつにも今みたいに抵抗した?それでも力で押し切られたのか?」 そいつ? 一成? 「・・・してない」 抵抗なんてしなかった。 「あの時はオレも、暑さでおかしくなってたから・・・」 あの暑さは、オレも一成もおかしくさせた。 「でも二回目からは暑くなかっただろ?抵抗しなかったのか?」 二回目? 確かにその後も抵抗はなかった。抵抗も何も、いつも一成の熱い思いをぶつけられて、それに流されて・・・。 「暑くなくても抵抗されないそいつと、力の限り拒否られたオレ。その違いを考えたら、思いの正体も分かるんじゃないか?」 一成と和哉の違い・・・? 「暑かろうが雰囲気に流されようが、柚はそいつを受け入れた。その理由が分からないなら、なんでオレを拒否ったのかを考えてみたらどうだ?」 そう言ってすっかり氷が解けてぬるくなった麦茶をごくりと飲んだ和哉の喉元を、雫が流れ落ちる。それを見てもオレは何も感じなかった。 一成の時はなぜか目が離せなかった。それに、近づいて来ても押し倒されても全然平気で、むしろ・・・。 あの時の一成の顔を思い出して顔が熱くなる。
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