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その日はキャサリンが私のペアに木村さんを指定した。
扱う単元はwhereを使って、自宅、職場、学校に故郷など、相手に場所について尋ねるというものだ。
「カナエさんから質問どうぞ」
前に座っていた木村さんが、こちらに笑顔を向ける。
「OK」
そう答えたものの、教科書を見つめたまま私はほんの少しの間、選択肢で迷う。
大の大人である木村さんにする一つ目の質問が学校についてというのは違う気がする。加えて職場については聞けない。パートか何かしているかもしれないけれど、専業主婦だったら答えに困ってしまうだろう。
そんなことまで考えなくても良いのかもしれないけれど、私はそんなことまでつい考えてしまうのだからしょうがない。結局、選択肢の中から故郷を選択した。
「Where is your hometown?」
私の質問を受けて木村さんは、のそのそと口を開く。
「えっと、マイ、ホームタウンイズ、フクイ、フクイズ、んー。メイサンヒン、名産品って。えっと」
手元の電子辞書を開いた木村さんは、これもスムーズとは言えない手つきで、文字を打つ。
「めい、さん、ひん」
会話の途中に辞書を引くのは木村さんくらいのもので、他のグループは既に質問者が交代しているようだった。木村さんが答えやすそうな質問を投げかけたにも関わらずスムーズに会話出来ないことに、ついイライラしてしまう。
ただ木村さんはそんな私の様子に全く気づいていないようで、そっか、とひと言呟いてから電子辞書の画面をこちらに向けた。
「ね、名産品って、local specialityって言うんだね、知ってた?」
私は何とか保った笑顔のまま首を横に振る。
「だよねぇ。で、どこやってたっけ」
「私が質問して、木村さんが福井について話そうとしたところです」
耐えていたのに、つい日本語が出てしまった。しかも自分でもわかるくらいに棘のある声で。
「あぁ、そうそう」
さすがに気づいただろうと思うのに、木村さんの態度は何も変わらない。そのままのんびりと、福井の名産品について話す。結局、私たちのグループは木村さんのターンで時間切れとなり、私が木村さんから質問を受けることはなかった。
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