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 深夜まで営業しているファミリーレストランは、私を何事もなかったように受け入れてくれた。  体の内側を通ってコーヒーの熱がじんわりと全体に広がっていく。  落ち着いてみると、さっきまでの私が如何に危うい状態だったのかがわかる。牧瀬レンに会えなくて良かった。というかあんな方法で会ってはダメだった。  コンビニで買った充電器を差したスマートフォンの電源を入れる。  復活したスマートフォンでまず目に入ったのは、中島さんからの電話とメッセージだった。どちらも十件ずつくらい入っている。一時間前を最後に着信履歴はなく、立て続けにきていたメッセージの最後は、【読んだらとりあえず連絡してください】とある。今既読にしてしまったので、返信をしないといけない。何と返そうか。  そう考えつつも指先は中島さんとメッセージの画面を落として、もはや条件反射でツイッターを開く。牧瀬レンを検索してアイコンをタップした。 【卒業ライブはありません。直接お別れを言えなくてごめんね。】 【さて、次はこれからの話をします。実は次の所属先も決まっています!所属先は、〈ケー・プロダクション〉です。(https;//k-product~…)】  単純に驚いた。私のスマートフォンの充電が切れてから、あの牧瀬レンの脱退報告のつぶやきには続きがあったのだ。 【ただ一つ残念なのは、事務所を移ることによって牧瀬レンの名前は使えなくなってしまいます。】 【やっと覚えてもらった名前を変えるのは本当に残念だけど、こればかりはしょうがない。新しい名前は、僕の希望を踏まえて所属する事務所の社長がつけてくれました!】 【さらにさらに!新しいグループへの所属も決まっています。グループ名は〈プリンスメイト〉、みんながつくる王子様、がコンセプトの新しいアイドルグループを目指します!詳細はまた後日伝えさせてね。】 【ということで、今後も牧瀬レン改め夢咲光輝をよろしくお願いいたします!】  長く息を吐く。スマートフォンをテーブルに投げ出した。  なんだこのバカっぽい名前は。  売れない。牧瀬レン、いや牧瀬レン改め夢咲光輝は絶対に売れない。  頭が痛くなってきた。座ったまま上を向く。明るすぎるくらいに明るいファミリーレストランの照明は、瞼を閉じていても眩しかった。  でも。  でも、もう認める。私は夢咲光輝の熱狂的なファンだ。  今日と明日はどうしたって地続きで、明日になっても恵里ちゃんが新プロジェクトのメンバーに選出されたことは変わらないし、川上課長は私に優しいかもしれないけどそれは恵里ちゃんに向けるものとは圧倒的に種類が違うし、後輩たちの私への本音だって変わらない。中島さんには謝罪をするとして、二人で食事に行くことはもうないかもしれない。  それでも、会いたいと思える人がいる。今はそれだけで、明日が少しだけ怖くない気がしていた。  今度こそちゃんと会いに行こう。多分すぐに新しいグループのライブチケットが売り出される筈だ。  ただ私には、それよりも前にしなければいけないことがある。  ゆっくりと深呼吸をしてから、夢咲光輝のツイッターアカウントにあるフォローボタンをタップした。表示がフォロー中に変わったことを確認してから、先ほどのツイートを開いて返信画面に移る。  どんな言葉をかけるか、迷うことはなかった。【ずっと応援しています】という月並みな言葉を、夢咲光輝はきっと全力で喜んでくれる筈だから。 【了】
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