振り向いてはいけない。

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 けっして、振り返っちゃあいけないよ。  むかしっから言うだろう?  死人の声が聞こえても、振り向いてはいけないってさ。 「はあ、はあ、はあ」  僕は、咲子の手を引きながら必死に走っていた。 「おにいちゃん、てがいたいよぉ」 「いいから、走るんだ!」  早く、ここから逃げないと。  早く、この暗闇から脱け出さないと。  早く、早く、早く。  捕まってしまう! 「咲子、がんばれ!」  妹に声をかけながら、僕は必死に走っていた。  明かりが、遠くに見えた。  助かった! 「咲子、もう少しだ! ……あ」  足がもつれて、転んでしまった。  その拍子に、咲子とつないでいた手が離れてしまったのだ。 「咲子! どこだ!?」  手探りで咲子を探したが、触れるものはなかった。 「おにいちゃん、どこぉ……?」  咲子が、泣きべそをかいている。 「咲子!」  僕は思わず振り返ってしまい、はっとした。  昨日、咲子は死んだじゃあないか。  
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