偶然に翻弄される世界で

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 ザクリ……。  吹き溜まった新雪にエスキモーブーツが深く埋まり、思わず足を止める。 「……」  腰を下ろし、背嚢に縛ってあった小さなカンジキを外して足にはめる。勾配がきつくなっていて先が見通せないところを見ると、ここは小山なのかも知れない。 「ジン、この山の先まで行ってみよう。起伏のある場所なら、風裏に生き残っている森があるかも知れない」  傍らで足元を不安そうに確かめていたへ、防寒マスク越しに声を掛ける。ジンは『ウォン!』と一言だけ吠えて、一緒に勾配を昇り始める。だが……。 「何も無い、か」  勾配を登りきった先は、一面の雪原だった。見渡す先に、森林などは見当たらない。ならば獲物を見つけるのも難しいか。 「ふぅ……そう上手くは行かないか」  白く煙る吐息に気落ちした、その時。 「ジン、どうした?」  ジンが左手の先をじっと伺い、しきりと鼻を鳴らしている。 「何かあるのか?」  目を凝らした先に、何やら角張った物が見える。多分、雪に埋もれた旧時代の遺物か何かなのだろうが、これだけ新雪が降った後に『角が残る』事はあり得まい。  誰か『雪下ろし』をしているに違いない。そう、自分の他に『生存者』が。 「……行ってみるか」  用心しながら前へ進み、その『角』に近づく。軽く雪を払った下から出てきたのは、鉄で出来た扉だった。 「誰か出入りしてるのかもな」  ハンドルを引っ張ると、扉は簡単に開いた。凍結防止のグリスが塗ってあるところをみると、ちゃんと手入れがされているようだ。 「おーい……誰か、いるのか?」  暗い奥に向かって声を掛ける。だが、反応はない。 「……降りてみるか、中へ」  中に入ると、そこは前後に長い廊下の途中のようだった。……ただし、かなり傾いているようではあるが。ほぼ横倒しのような感じ。 「かなり大きい空間だぞ、これは」  ランプを取り出し、油を注いで火を灯す。貴重な油だが、真っ暗で前が見えないのだ。 「行くぞ、ジン」  ジンも自分に続いて中へ入り、ピタリと横について前へと進む。  コツン……コツン……。  乾いた靴音が響く。少し進むも、先は遠いようだ。 「何かの遺跡だとは思うが……何だこれは?」  足を止めた時だった。 「……おや、来客かね。珍しいな」  突然、背後から声がした。 「うぉっ!」  慌てて振り向いた先に、長い白髭を蓄えた老人が立っていた。  ジンもグルル……と唸って身構えている。 「いや、別に敵意はない。むしろ、久しぶりに生きている人間を見たんで嬉しいくらいだがね」  老人はその場に座り込み、ジンにしわがれた掌を差し出した。 「さ、臭いを嗅いでごらん。怪しいもんじゃあないんだ」 「……アンタ、ここに住んでいるのか? 食料はどうしている?」  そう、一番知りたいのは食料(そこ)だ。どうやって食料を調達しているのか。 「ああそうだ、儂はここに住み着いている。……食料はここの下深くにある『備蓄』を少しづつ食べていてね。……ここは落下以前の旧時代に造られた巨大客船の残骸なのさ」
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