底辺志望・男『T』

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 するとこの日は日曜日で、隣人は休日なのか。  アパートの壁が薄いということもあり、壁の向こうから「うるせぇ!」という男の怒声がはっきりと聞こえてきた。  タカは立ち上がると、声の聞こえてきた壁とは反対側の壁の前へと行き、「なんだとこらぁ! やんのかぁ!」と聞こえてきた怒声と同じような調子で言い返した。  タカは両隣に住む住人とは面識があった。  怒鳴り声のしたほうの部屋に住んでいるのは、自分よりもひとまわり体格がよく、建築関係の仕事に就いていると思われる三十代半ばぐらいの男性である。  対するタカが吠えたほうの部屋に住むのは、メガネを掛けていてヒョロッとした、近くにある大学に通っていると思われる青年である。  タカはそのことを認識していて、危険なほうだと思える壁を避け、勝利の女神が微笑む側の壁に向かって吠えた。  案の定、数秒の間の後にタカが見ている壁の向こう側から、「やりません」という返答があった。  それを聞いたタカは、すかさずに反対側の威圧感の伝わってくる壁の前に移動して、「分かってくれたならいいんですよ! こちらこそ、嫌な思いさせちゃってごめんなさいね!」と言った。  三十秒ほどが経過しても何の返答も無かったので、トラブルにならずに済んだと思い、胸を撫で下ろすと、再び指定席である座布団の上にあぐらをかいた。  タカは、先ほどのピンポンダッシュをした直後に迫るほどに呼吸が乱れていた。  後日、タカはいつものように、一日一善ならぬ一日一悪のネタを求めて外を歩いていた。  その目はまるで、糸通しを使わずに縫い針に糸を通そうとするかのように真剣であった。 (……お、何かある予感)  タカは全国チェーンであるオモチャ屋、「トイ★座」の店舗の前で立ち止まると、まだ見ぬ建物の中に本日の一悪を予感した。  タカは店内に入ると、迷うことなくエスカレーターを使用して、二階建ての店舗の上の階へと移動した。  到着するとすぐそばに電光掲示板が設置してあり、そこには「トイブロック・最強の城選手権・最優秀作品完全再現」と表記されていて、矢印で場所を案内していた。 「ひゃっほ〜い!」  タカはトイブロックコーナーに到着する前から、そこに一悪のネタがあることを確信すると、興奮を抑えきれずに思わず吠えた。  目的地に到着すると、丸テーブルの上に光沢のある黒色のテーブルクロスが床に着く長さに敷いてあり、その上に“最強の城”は展示してあった。 
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