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「うるせぇんだよ、そんな大声出すなよ。――悪かった、馬鹿にしたように言って。てか主人公の名前がギラギラ・ウルフで、なんで大人気アニメになれるんだよ。意味が分かんねぇよ。――ごめん、ギラギラ・ウルフの一番かっけぇパンツを買ってやるから降りてくれ」
「うん! 約束だぞ!」
「だから声がでけぇんだよ」
陸は嬉しそうな表情をしてタカの背中から降りた。そしてタカと約束の握手をすると、「よっしゃ!」と契約書にサインをするかのように言うと、部屋を出ていった。
タカは「ギラギラ・ウルフ」たるものがなぜそんなに人気があるのか、純粋に気になって関心を寄せた。
同時に、やはりここは違う時空世界の、日本のどこかであると認知した。
タカの頭の中に一つの疑問が浮かんだ。
「なぁ、ちょっと見てほしい物があるんだけど?」
「なんだ、見せてみろ」
四郎がそう言うと、タカは昨日から履き替えていない、カーゴパンツの右側の太ももの辺りについているポケットから、二つ折り財布を取り出した。
財布の中には数枚のカードと、都合よく、全ての種類の紙幣と硬貨が入っている。
話題作りの目的で二千円札も二枚、常備してある。
タカは、まず紙幣を一枚ずつ手に持って、部屋にいる三人に見せながら、知っているかどうかを確認していく。
続いて硬貨を一種類ずつ見せ、確認をとっていく。結果にタカは驚いた。
二千円札と五千円札、五百円硬貨は、この日本には存在していなかった。
だが、それら以外は全て存在しており、貨幣として市場に流通していることが分かった。
タカが思考しようとすると四郎が、「どうだ、ゼットキング肉とヘビーバターの脂がずっしりと胃にたまって苦しいだろう」と、一部、見たことのない貨幣は記念硬貨だとでも思っているのか、まるで関心のない様子である。
タカは四郎の問いに対して、いつものより幾分は苦しいが、この程度かというのが正直なところであった。
「……やばい、重たい重たい重たい――」
タカは四郎を満足させようとお腹に手をあてて、少しずつ膝を曲げていき、最終的には空気椅子の姿勢をとって、“胃の中が重いっす”と猿芝居を演じた。
それを見ていた京子と真夏は、胡散臭い男だとでもいうように、笑みを浮かべながらも真に受けていないといった様子である。
四郎も笑みを浮かべながら、「そうか、それはそうだろう。胃が重くて苦しいだろう」と、京子と真夏とは違い、タカの反応にご満悦といった様子である。
タカは苦しそうな演技をしながらも、胃もたれの裏屋敷刑などどこ吹く風というのが本音である。
そんなことよりも、この次元の日本と自分が昨日まで居た次元の日本で、一部の貨幣だけ共通であることの理由を考えていた。
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