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数日後の午前中、天気は快晴であった。
この日、タカは裏屋敷家の指令により、四郎、京子夫妻の大切な長男である、陸がかねてから欲しいと希望していた商品を購入するように命じられた。
国民的アニメである、『アシスト魂・ウルフとハナちゃん』の主人公である、「ギラギラ・ウルフ」の絵柄が刺しゅうされたパンツを、デパートにて購入せよというのが指令である。
タカは面倒くさいという本心を悟られないよう、陸の事を思ってというような表情を作って、「一か所だけで選ぶよりも、ネットで多くのショップから探したほうが、絶対いいのが見つかるって。そうでしょ?」と、四人に向けて提案をした。
すると、思ってもみない返答があった。
どうやらここ縁日本には、インターネットなるものが存在していないということである。タカはさらに掘り下げてきいた。
その結果わかったことは、パソコンにスマートフォン、携帯電話に該当する物は無いということである。
固定電話は存在し、どこでもドアならぬ「ちょこっとドア」という物があるという。
ちょこっとドアについて尋ねると、標準プランは月々二万円かかり、契約地点から十五キロメートル以内であれば、一か月三十往復まで行き来できるという。
実物を見せてもらうと、“ドア”という名がついてはいるが、形は大きめのフタ付きの業務用ゴミ箱のようである。
色は光沢のない黄金色であり、触るとステンレスのような素材であった。
両手で持ち上げてみると思ったよりもかなり軽く、タカは「強めの風が吹いたら飛ばされたりはしないの?」と、率直な疑問を口にした。
すると四郎は、「強風が吹くような所に行く人間に、この『ちょこっとドア』を使う資格はない。そんなの常識だぞ」と即答した。
タカは、こんなに詰めの甘い大発明がこの世界にはあるんだと、思わず「惜しいな」と口にした。
タカは、京子から外出用の制服だと手渡された衣服に着替えると、「なんの研修やねん」と、ツッコまずにはいられなかった。
黒色のデニムにオリーブ色の無地のTシャツ。
そしてなぜか、市場で使用されているような、紺色のビニール製と思われるエプロンを身に着けさせられている。
「どうした、不満か?」
四郎は心持ち、含み笑いを堪えるかのようにして確認を取る。
「おかしいだろ! なんでデパートに行くのに、エプロンなんてしなきゃいけないんだよ!?」
「――外出する時はみんな身に着けている。そんなの常識だぞ」
「ウソつけ。あんたら昨日、外出先から家に帰って来た時、誰もエプロンなんてしてなかったじゃねぇかよ。オレにマグロの解体ショーの手伝いでもさせるつもりかよ」
「……分かった、外していいぞ」
「なんなんだよ、ったく」
タカはすぐにエプロンを外すと、財布の中に入っている使用出来る貨幣の金額で、「ギラギラ・ウルフ」のパンツは購入出来るかの確認をとった。
返答は、充分に購入出来るとのことであった。
タカは安堵すると、「それじゃあ、この『ちょこっとドア』を使って、ささっと行きますか」と言い、使用方法を聞こうとした。
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