ギラギラ・ウルフ

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 すると京子が、「このドアでデパートまでは行けないんだよ」と言うので、タカはすぐさま「ふざけんなって! どうして使えないんだよ?」と不満をあらわにした。 「契約地点から最初のデパートまでの距離は、十五キロ以上あるから使えないんだよ」 「はっ、どのくらい離れてるんだよ?」 「十六キロぐらいだよ」 「嫌がらせかよ!――てか、契約地点ってどこだよ?」  タカが尋ねると京子は、「このテープの中が契約地点だよ」と言って指を指した。  その目印は、いま「ちょこっとドア」が置かれている場所に、あと三個は同じ物が置けるほどの余白を残して、黄色のビニールテープのような物で、正方形に大理石のような床に貼られていた。  タカはそれを見て、口にこそ出さないがこう思った。  こんな未来を思わせるハイテクノロジーな道具の中枢を担う地点となる所が、こんなお粗末で安っぽい作りであることに、裏日本の住人の美的センスを疑うのであった。  タカにある妙案が浮かぶ。 「だったら、この契約地点ってところから、十五キロぎりぎりの場所まで移動して、そこからデパートに向かえばいいんじゃないの?」  京子は、自信に満ちているタカの標準を見て一度舌打ちをした後、「そんなことしたら、行った人間は不当利用罪で、五十キロのウォーキング、もしくは四十キロのジョギングが科せられるんだよ」と言った。 「……誰がこんなゴミ箱を経由してワープするかよ。――で、どうやって行けばいいんだよ?」  タカは「ちょこっとドア」を利用するのを諦めて、陸のほうを見ながら京子に問うた。 「――四郎、車で送ってあげたら?」  四郎は京子からそう提案をされると、明らかに煩わしそうな表情をし、「車検が近いから、今日は運転が出来ないんだ」と、表日本だったら意味不明とされる発言をして拒否した。  結局、タカと陸はタクシーで目的地まで行く事となった。  タカはタクシーが到着するのを待つ間、裏日本は表日本よりも文明が進んでいるのかを考えていた。  タカと陸はタクシーに乗車すると、『ムラサメ・デパート』へと向かった。  タカは車内から外の様子を、食い入るようにして観察している。  何しろ、裏屋敷家の敷地を出て初めてみる「縁日本」の光景である。  敷地を出て始めに目に飛び込んできた景色は、建ち並ぶ複数の住宅であった。  住宅街なのかは判断しかねるが、見る限り全て一戸建てであり、マンションやアパートといった共同住宅は見当たらない。  お金持ちが多く住む地域なのか、立派な豪邸が建ち並んでいる。  だが裏屋敷家と比較すると、どの家も見劣りする。  住宅街だと思われる区域を抜けると、確認出来る人々の数が増えていく。  建物の外観も変わり、商業地に入ったと思われる。  車内から見る限り、道行く人々の容姿や服装は、表日本と何ら変わらないように見える。  タカは、見慣れた姿の人達を見ると安堵した。
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