ギラギラ・ウルフ

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 次に車は、「アウトドア用品売り場」を通り過ぎ、「靴売り場」「フレー・フレー・ドリンクとおつまみ売り場」(フレー・フレー・ドリンクとは、お酒に該当する物だと推測する)を通過して行った。 「……あっ、着いた」  陸はそう言うと、身を乗り出すようにして、車内から右手側のウィンドウガラスに鼻と頬を押し付けた。  タカは「どこよ!?」と言うと、陸の肩に軽く両手を置いて、陸のつむじの真上の位置で同じ角度を意識し、鼻と頬をガラスに押し当てて、同じものを見ようとした。  タカは、いま陸が見ているであろう横断幕のような物に目を遣ると、「アシスト魂・ウルフとハナちゃんグッズ売り場」と、文字のみがプリントされている。 「すげぇな。体育館、いや、店舗全体でひとつのアニメの商品だけを取り扱っているんだろ?」 「そうだよ!」  陸は誇らしげである。 「大人気アニメを通り越して、このアニメを観るのが国民の義務なんじゃないかと思えてくるわ。グッズを買うのが納税するみたいな……」  タカは、ここ縁日本の人々を魅了するアニメがどのようなストーリーで、主人公のギラギラ・ウルフはどういった容姿なのか、期待を膨らませる。 「早く行こうぜ」 「次の信号、赤になったら結構待ちますので、そこで降りますか?」 「そうだな、頼みます」  赤信号で車は停車すると、歩道側の後部座席のドアが自動で開いた。  運転手の男性はルームミラーごしに「ありがとうございました」と言うと、笑顔でウインクをした。  陸が「おじさん、ありがとう」と言ってタクシーから降りると、タカも続けて下車しようとしたが、すぐにおかしな事に気が付いた。 「運転手さん、料金はいくらなの?――あれ、料金メーターついてないじゃん」 「お客さん、何をおっしゃっているんですか?」 「いや、タクシーでしょ。目的地まで送ってもらったんだから、普通は料金がかかるでしょ」 「料金なんて頂きませんよ。運転することが生きがいなんです」 「生きがいなんですって、それじゃあ、どうやって生活してるの?」 「もちろん年金ですよ。――お客さん、ワタシ、そんなに若く見えますか?」 「五十はいってないぐらいに見える」 「お客さん、正直ですね。こういう時は、少し若めにおっしゃってくれるものだと――四十八ですよ」 「四十八! 年金って何歳からもらえるんだっけ?」 「四十五歳から、日本に住んでいたらみんなそうですよね」 「……たしか、そうだったかな。日本人の平均寿命っていくつぐらいだったっけ?」 「男性が八十歳ぐらいで、女性は八十後半だったような」 「たしか、そうだったかな。――あれ、いま自販機の缶ジュースって、一本いくらだっけ?」 「たしか、百三十円ですよね」  タカはまだ質問したいことがあったが、信号が青に変わり後続車からクラクションを鳴らされたので、「そうか、ありがとな」と彼なりの感謝の言葉を述べると、そそくさと車から降りた。
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