ギラギラ・ウルフ

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 二人は建物の中に入ると、造りはタカの期待を裏切ることはなく、体育館そのものであった。  さすがにバスケットボールのゴールは設置されていないが、床には色とりどりのラインが引いてある。  タカは、いったい何の目印なのか首を傾げた。入口から遠い所には、演劇が行えるようなステージが設置されている。  どのお店も、まるでお祭りの屋台のようである。  タカは「これがデパート? ダセェな」と、ボソリと本音を吐露した。  タカは、まさか「プライダル用品売り場」で販売しているであろう高額な結婚指輪といった物も、チョコバナナを売っているような出店で取り扱っている光景を思い浮かべると、「ムードゼロだろ。新婚じゃなくて金婚式気分だな」と陸に向かって言ったが、フロアというより会場は混雑してざわついていたため、聞こえていないようであった。  二人は、目的の「ギラギラ・ウルフのパンツ」の売っている店舗へと向かった。  その途中に「トレーディングカード売り場」とプリントされた、ゴルフ場で見かけるような旗が立っており、二人は同時に「行こう!」と、目を輝かせながら言った。 「――リク! 背の高い扇風機を回して旗をなびかせるなんて、深く考えていなさそうな所が好感を持てるよな!」  タカは陸以上に浮き足立っている様子であり、いつもなら皮肉を口にするような状況でも、今は寛容な大人の男なのである。  屋台を通り越すと壁があり、トランプカードサイズの「アシスト魂・ウルフとハナちゃん」に登場するキャラクターがプリントされたカードが、この店舗に与えられているであろう使用スペースいっぱいに、隙間なくむき出しの状態で貼られている。 「このカードって、両面テープみたいなもので貼って固定してるの?」  タカは、この店の店主らしき男性に向かって尋ねた。 「両面テープ? なんだいそれは……ほら、この防犯電灯で照らしたら外れるんだよ」  店主らしき男性が一枚のカードに向かって、ペットボトルのような形をした防犯電灯とやらの先を向けて五秒ほど静止させると、先端部分が赤色に発光してカードを照らした。  そこからさらに五秒ほど光を当てていると、防犯電灯から「オッケーっす」と、先輩後輩の垣根があってないような弱小バスケ部の後輩が、先輩からの指摘に対して友達感覚で返事をするかのような言い方の、安っぽい音色が聞こえてきた。
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