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「ほら、お兄さん、外して下さいな」
タカは店主に促されるようにそう言われると、防犯電灯が外しても大丈夫だと言う一枚のカードを、中指と親指で挟むようにして掴むと、ゆっくりと引っ張った。
すると、カードは壁から簡単に外すことが出来た。
タカはカードの裏側を確認するが、粘着テープ等は確認出来ない。
指でさすってもツルツルとした手触りであり、引っ掛かるような感触は感じられない。
「こんな光なんて、ただのパフォーマンスじゃないの」
タカはそう言うと、壁に貼り付けてある他のカードを掴むと、同じようにして外そうとした。
だが、カードは瞬間接着剤で固定されているかのように、外すことが出来なかった。
「ちょっとお兄さん、そんな乱暴に剥がそうとしないでよ。大事な商品に傷がつくでしょうが」
「あ、わりぃ」
タカはカードを外すのを諦めると、「はい」と言い、手に持っているカードを店主に返そうとした。
「お客さん、返品は出来ないよ。一度外したら、もう取り付けられないんだから」
「はぁっ! あんたが勝手に光を当てた物だろうが、自分で選んだカードだったら買うけどさ。よりによって、こんなザコキャラ外させといて、やり口が汚いんだよ」
「お兄さん、なに言ってんだい? ギラギラ・ウルフが千五百円だよ。赤字覚悟の出血大サービスじゃないかい」
「なにごまかそうとしてい……これがギラギラ・ウルフなの!?」
タカは、手に持ったカードを見ながら文句を言っている途中、カードにプリントされた人物の下側サイドに、「ギラギラ・ウルフ」と書かれていることに気が付いて、陸と店主に確認をする。
すると二人は、シンクロナイズスイミングの名ベテランペアを思わせるかのようにそろって、「何言ってんの、当たり前でしょう」と言った。
タカは、もともと想像しきれていなかったギラギラ・ウルフの姿かたちが、思い描けるはずがないというほどにかけ離れていることに、縁日本の人々とはこの先何年ここに居ようが、分かり合えることはないのではないかと思うのであった。
「このダサいのがギラギラ・ウルフなの? てかどんな内容のアニメなんだよ?」
タカは二人に向かって、恋人の過去と同じぐらいの興味をもって知りたいと思った。
陸と店主は、そんなタカの欲求を知ってか知らでか、絶好調のシンクロ度に酔いしれているかのような高揚感に満ちた表情で、再び声をそろえて、「ギラギラ・ウルフがダサいだと。そう言うオマエのほうがダサい。内容を知らないなんてなにごとだ!」となんだか楽しそうである。
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