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「あぁ、確かそんな感じだったかな。あの時は独特な雰囲気で力を出しきれなかった思い出がある。――あの独特な雰囲気、おっちゃんはどう思った?」
タカは小学生の頃、大好きな水泳の時間に、ゴーグルとタオルしか入っていなかった時のことを思い出していた。
担任の教師から水着とスイムキャップが無いんだったら、授業は見学するようにとの指示を受けたが、タカは諦めきれなかった。
そこでタカは、ランドセルの中を確認したらありましたと嘘を言って、水着の代用は穿いていた白色のブリーフを、スイムキャップの代わりは着ていたパーカーの紐を抜いて、頭頂部から被せるようにして下顎の所で結んで固定し、何事も無いような顔で授業に参加しようとした時の事を思い出していた。
その時は、結局授業を受ける事は出来なかったのだが、タカはあの頃と似たような気持ちで、知ったかぶりを通して店主のおっちゃんを欺こうとしていた。
「ワッシはあの時は、イライラして仕方がなかったでぃ。別にこちとらリアルマンになんかなりたかねぇのに、合格したら人生の勝者とかぬかしやがってぃ。ふざけるなと思いやしても、ガキにそんなふうに言うてぃ、内心ドキドキしてたでってぃ」
「そ、そうだったんだ。おっちゃんもオレと同じようなことを考えていたんだね」
タカはリアルマンが五千人で足りるのかとか、なれた人たちはどのような生活をしているかなどを順序立ててきいていこうと思っていたさなか、ある重要な矛盾があることに気が付いた。
「あれ、そういえば。話は変わるけどさ、カメラってこの世界には存在していないんだよね?」
「お兄さん、さっきから何を訳のわかでねぇことを言ってんでぃ。“カメラ”ってぇのはどんなもんでぃ?」
「カメラは、静止画とか動画を撮って記録しておいて、後からテレビの画面とかを通して、そのときに撮影した映像をいつでも見ることができる道具だよ。そういえばテレビはあったよな。リクんちに何台かあるよな」
「ウチにテレビは十台はある」
陸は即答であり適当に言ったような気もするが、そのぐらい、それ以上設置してあっても何ら不思議はない。
「ほら、そうだよな。ビデオカメラが無かったらテレビがあっても意味ないだろ。てかギラギラウルフだって放送できないって」
「……ああ! お兄さん、そのビデオカメラってぇのは、もしかして『発表し太郎』のことでぃ」
「ハッピョウシタロウ?」
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