1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ひゃっほぉ〜い! 子供たちの夢、壊せたか微妙だぜぇ!」
タカは走った、走り続けた。
行き先も決めずに走り続けた。
そして体力も限界を迎えようとした頃、ちょうどコンビニエンスストアが視野に入り、店内ではなく建物の裏側に回ると、倒れ込むようにしてアスファルトに座り込んで壁に寄りかかった。
タカはしばらくの間、その態勢のまま目を瞑って乱れた呼吸を整えた。
心拍数が正常な速度に戻っていくのに伴って、先ほどの子供たちに悪事の意味が伝わっていなかったかもしれないことに対して、恥ずかしさが込み上げてきた。
「くそ、だからなんであいつらタメ口なんだよ」
それから数分が経ち、タカは呼吸を整え終えると立ち上がって、歩き出してその場を後にした。
この先、とくに行き先を決めていなかったが、現在地から徒歩で十分ほど移動した場所に、実家があるので向かうことにした。
タカは玄関の前に到着すると、合鍵でドアの鍵を開けて、何も言わずに家の中に入った。
玄関で靴を脱ぐとそこから五歩先にある、自分の部屋がある二階に続く階段を上ろうとした。
「うぉぉぉぉぉ!」
階段のすぐそばにあるドアが開いて、タカの母親である二宮智子が突然目の前に現れると、タカは驚いて、バックステップで母親から間合いをとった。
「いきなり出てくるなよ! ビックリするだろ」
「ただいまぐらい言ってから入って来なさい。泥棒だと思うでしょ」
智子は右手にステンレス製のお玉を持っているが、まさかこれで泥棒と戦おうとでも思っていたのであろうか。
タカの母親である二宮智子は、“大衆食堂で働く優しいおばちゃん”といったような雰囲気の女性である。
「どうして手にお玉なんか持ってるんだよ」
「これは、みそ汁よ、チャーハンを作るところだったんだよ」
「みそ汁関係ねぇじゃん。なんで出てきたんだよ」
「それは――そんなことより平日の昼間から、仕事はどうしたの?」
「いや、有給使ったんだよ!」
「それだったらいいんだけど――今日は何の用なの?」
「いや、用がないと来ちゃいけないのかよ! ちょっと部屋で一服してくる」
「お昼は食べていくのかい?」
「あぁ、食ってく。三十分ぐらいしたら下りて行くから、なんか作っといて」
「わかったよ。カレーライスにするから、出来たら呼ぶね」
「チャーハンはどこにいったんだよ。訳わかんねぇよ」
タカはそう言うと、階段を上って二階の自室へと向かった。
「階段なげぇんだよ」
この台詞は、タカがまだ実家住まいだった頃からの口癖である。
二階までの階段の段数は、一般的な住宅となんら変わりはない。
階段を上って行くタカの背中を見つめる智子の表情は、子を心配する母親そのものであった。
最初のコメントを投稿しよう!