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タカは、窓の外に見える青空をぼんやりと眺めていると、いつの間にか眠ってしまった。
二時間ほどが経過して目を覚まし起きあがると、掛け時計を見て時間を確認した。
「うそ、もう四時かよ――そろそろ帰ろうかな」
タカはこの後、これと言って予定があるわけではなかったのだが、眠っていた時間を損したような気分になり、慌て気味に帰る身支度を始めた。
「家に食べるものはあるの。カップラーメンでも持っていくかい?」
「大事な一人息子に、もっと栄養のある物を持たせようとは思わないのかよ。――おぉ、もらってくわ」
タカは、いつもは母親と話す時は顔を見て話さないのだが、この時は無意識に智子の目を見ていた。
智子もこの時、これから息子の身に起こる出来事を予感していたのかは定かではないが、タカの姿をしっかりと目に焼き付けるかのような瞳であった。
「じろじろ見てんじゃねぇよ!」
タカは照れ隠しの気持ちが八割から、少し強めの口調であった。
「ごめんなさい、なんでもないのよ。――それより体調は大丈夫なのかい?」
「体調? なんだよいきなり――どこかおかしい?」
智子の問いに対して、タカは少し不安を感じていた。
「いや、どこもおかしくはないのよ。だけど、なにか“薄い”のよねぇ」
「“薄い”って……おいババァなに言ってるんだよ。――イヤだ! 死にたくねぇ!」
タカは、智子の口から出た“薄い”という単語に反応して気が動転するとキッチンに向かい、冷蔵庫を開いて中へと逃げ込もうとした。
「ちょっと何してるの、やめなさい」
智子は、突然の息子の奇行を必死で制止しようとしている。
「いやだぁ、死にたくねぇ」
「大丈夫だから落ち着きなさい。“薄い”って言うのは着ているTシャツのことよ。生地が薄くて乳首が透けて見えているからそう言ったのよ」
「なんだよ、驚かすなよ! ――これが今の流行なんだよ!」
タカは冷蔵庫の中に顔を突っ込んだまま、いつもの強気な口調に戻っていた。
「分かったから冷蔵庫から顔を出しなさい」
「はぁ、誰に向かって指図してんだよ! うおぉぉ!」
タカは冷蔵庫から顔を出して振り返ると、母の顔が予想以上に近くにあったために驚いて、今度は左肩から冷蔵庫の中におじゃまします。
「ちょっと、だいじょうぶ」
タカは冷蔵庫から出ると、勢いよく扉を閉めた。そして「いてぇな! なんなんだよ!」と言い、八つ当たりをしようと両手で冷蔵庫を突き飛ばそうとした。
「うおぉぉ!」
だが冷蔵庫はビクともせず、逆にタカが冷蔵庫に突き飛ばされるかのように後ろに倒れ込んで、尻もちをついた。
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