清らか、

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清らか、

これもまた予想したそのものの不機嫌な顔をした主人を乗せ、黒い車はするすると走る。 神社仏閣と名のつくものは数あれど、社そのものを指すのは車が目指すそこだけだ。 端から端へ駆ければ息が上がるほど巨大な、神々がおわした時代からそこにあると言う古い鳥居とその先に座す霊峰。 それ自体が神の住まう社であり、下界においては現人神であられる帝の所有する広大な聖域だ。 「うつくしいな……」 「はい」 この、一服の絵画の額のような鳥居から遠く霊峰を拝することが、ごくごく限られた一部の人間に許された真の参拝であった。 ここが、この国すべての信仰の祖である。 真摯に厳粛に、膝を折り、頭を垂れ、心からの祈りをささげて遠夜は車に戻った。 「──落ち着かれましたか?」 「……」 たっぷり五秒してからやっと小さなため息が聞こえた。 「……四扇は、代々帝にお仕えする神官の家柄だ」 「はい」 「──それがなぜ、」 「……」 この主君は編入に納得がいっていないのであろう。それは百年も前から明らかだった。実際、神職に広い目など必要ない。むしろ狭く、つきつめた、深い信仰の世界だけ見させていた方が俗世離れした箔が付いてよかろう。 「お父上は坊っちゃんの御為を考えておいでです」 「お前なら父様の胸の内がはかれると言うのか?」 「大変恐れ多いことを申しました」 「ふん……」 さて、もう少し先で脇道に入れば坊っちゃん気に入りの西洋料理店があるが──と鷹菱が思案していると、珍しいことに遠夜が二の句を継いだ。 「……程度が低いんだ」 内容はいつも通りではあるが。 「あまりにも……。誰も彼も俗っぽい話ばかりだ。信仰の話も政の話もとんと聞かない。せいぜいが勉学のこと……他は、家の商売だの運動競技(スポーツ)だの、くだらない」 「左様で……それは、坊っちゃんにはお辛い」 「辛いなどというものではない!」 「察して余りあります」 「…………ふん……」 「……」 鷹菱はそのため息を聞きながら不昧不落の主のため、その心根のごとくただ車をまっすぐに走らせていた。
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